No.276







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●頭頂がスースーするようになって、帽子を常用することとなった。昔、ラジオで「頭は帽子掛けのようなもの…」と言った御仁がいた。少年の儂は腹を抱えて笑った。「帽子は…(最早儂の)頭の一部です」。若布という食物が髪に効くという俗説は、儂には通らなかった。「若女」とすれば結果が違っていたかも知れない。ともかくも、日頃儂は若目をよく喰う。以前入り浸った鮨店が刺身のあしらいにソレを大盛りにするのに感化されて、わが家にても(あしらいどころか)主役と紛うほどに添えるようになった。もちろん酢のものや汁の実としてもよく使う。若芽が専門の小売り店が、わが町には一軒しかない。その店が儂にはどうも馴染めないので、あとはデパ地下の催事コーナーに現れるのを待つのみ。あるいは出店業者さんから取り寄せる。何れにしろ新物が出る春にどっさり買い込んで冷凍庫に放り込む。何故か凍らない! 新がよいのか陳がよいのか、はたまた天然がよいのか養殖がよいのか、バラツキがあってよくわからないけれど、それでも新物に拘るのが儂の流儀だ。根に近い茎の部分にヌメヌメした奇怪な形状の襞がある。和布蕪というやつ…若布の本体以上に儂は目がない。生が出回る期間が短いけれど、店頭にある限りは毎日でも(自分で刻んで)食ったりする。ソレが無い季節のために細切りにされた乾燥品も当然ストックしている。(上のスペースに和布蕪を描こうとしたら形がよく分からなくて困った)。種類の違うらしい出雲の薄い干海藻の焙りを摘まみながら呑む酒が愉しいのだが、ソレが名物だった蕎麦店が様変わりしてから自然に足が遠退いて、もう久しくアレをパリパリやりながらグビグビとナニする機会がない。

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