●見下ろす沢の源頭が、低山なのに、カール状に大きく広がっていた。惹かれるままに尾根を外して、踏み跡ひとつない未知の斜面を降り始めた。ふかふかの足裏感覚。落葉の間から山葵・破れ傘・走り野老などの若葉が萌動していた。どれもメチャ旨そうに見え、猛毒の走り野老までそのまま口に含みたい衝動に駆られた。アブネー。釣り人などが「誤ってこいつを食ってしまった」なんていう事件を耳にするたび、「なんでそんなものを……」と呆れたものだが、「なるほどねぇ、気分しだいでそういうこともあるのかなあ」と、半分納得した。ザイルも持たずに沢へ降りるのも非常識だけど、そこは経験で、この手の山なら途中で仕事道を拾えるに違いないと踏んでの行動である。事実その通りとなり、無事に下山した。

▲五匹の犬を連れて、よく訪れる大川の土手へ遊びに行った。五匹のうち四匹は、まだ名前も付かぬ、生まれて間もない子犬たちだ。その四匹は自転車の前籠に乗せて出掛けた。例年なら、先ずは蓬・菫・蒲公英・土筆…… それから赤白の詰草などで賑わう場所であるが、この春(昨年のこと)は何故か野豌豆ばかりが蔓延していた。豆科特有の香ばしさが愉しめる野草だから、犬たちが斜面を転がり回るのを横目に、そいつをしこたま摘んでレジ袋を膨らませた。家に戻って、早速、件の野豌豆の下処理を済ませた。それから冷たいビールをグビッとやって寛いだ。TVをつけたら、ローカル局が、産廃処理場から遠くもないあの付近から、「高濃度のTCDDが検出された」と報じていた。ヤバイぞ。縺れる足でキッチンへ走り、下拵えを済ませたばかりのあれをすべて芥箱の中に葬った。


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