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あなたはコンピューター好き?

この本を手にする方は、どのぐらいコンピューターを家庭で使っているのかしら? 私は友達でシニア世代の人にこうすすめる……。

「いまのうちにパソコン始めたら? トシとってからじゃ覚えるの大変だから」

「そうね、やろうかな」言ってそのままの人。

「私はとてもムリ」と姉。

「病気で寝ても、e-mailでおしゃべりできるし、買い物だってインターネットでできるから便利じゃない? ニュースも画面で読めるし」

「でも、覚えるのがメンドーだわ」

シニアは億劫がる。でも、チャレンジしなくなることが、トシをとった印。そこを克服しなくちゃ。できないはずはない。子供ができるなら大人はもっとやさしい、とポジティヴに考えなければ。

パソコン人口は、日本では永年、若い世代に偏っていたけど、最近はシニアのパソコン熱も盛んだ。これをやるのと、やらないのでは、生活が違う。ランプと電灯ぐらい、違う。今日は、e-mailで親しくなった友達のお話だけど、その前にIT先進国、アメリカのデータを書くと――移民国家だから分類も詳しくて、家庭でコンピューターを使う割合は、アジア・太平洋人種(日系もここにはいる)が最多で73%、白人は61%。ヒスパニックは40%、黒人は37%と低い。

でも収入で切ると、収入の高い層はどの人種もほとんど横並びで80%から90%の普及率だ。これは2001年9月の調査で、インターネットを初めて使う人口は毎月200万人ずつ増えているそうだから、いまはもっと多いはず。

日本で食わず嫌いの人には、モノ書き業にもずいぶんいて、「やっぱりペンでないと」と固執する友達もいる。気持ちは尊重するけど、実際の連絡では、e-mailを使ってくれないととても不便だし、原稿はさらに面倒だ。ファクスが登場したときは便利! と感激したのに、いまは紙に印刷して送る手間で「ファクス、メンドー」になった。

私のうちでは朝起きると、すぐパソコンの電源を入れる。i-Macと i-Bookの二台で、片方はグリーン、もう一つはブルー。アップルは姿が軽やか、使い勝手もいい。立ち上げのピューンという音が快い。

顔を洗いながら、途中で画面を覗く。メイルが来ていれば「ワーイ」だ。何本も来ていればうれしいし、一本も来ないと気が抜ける。何時の日か、e-mailがこなくて自殺するメイルマニアックが出るかも?

娘と私がいちばん歓声を上げるのは、「シンチャン」でくるメイルだ。これは奥能登の珠洲に住むひと、まだ一年足らずの知り合いなのに、メイルを交わすうちにどんどん親しくなった。ひとつには、彼はユーモアの持ち主で、とっても愉快で軽やかな文を送ってくるから。



フキノトウは落葉も混じっていい匂い

メイル友達はマメ人間

そしてマメだ。パソコン人種はマメ人種でもある。e-mailは、テニスのヴォレーみたいに、やったりとったりが頻繁だからおもしろい。「梨のつぶて」の不精者にはむかない。新ちゃんもうちと同じ、マメにんげん。

川柳じみたヘタ俳句を私が送ると、新ちゃんからも似たようなのがくる。《TheWestWing》(ホワイトハウス)を真似た、うちの家族のコードネームを書き送って当てっこしたり。ブリの食べ方や、ゴボウの風変わりな料理法がメイルでくるのは、新ちゃんは湯宿さか本の主人だから。彼は、静かな宿と純粋な食事を愛するひとの間にファンが増えている天才的な料理人だ。

ここの話しは、最新の「ご馳走の手帖」(暮しの手帖)に書いたけど、ほんとに二つとないすごい宿だ。四谷の丸梅の女将さんが亡くなって、あの味と精神にもう出逢えないと嘆いていたら、その丸梅を思い出す、純粋な味なのだ。

最初のうちは遠慮がちなメイルを出していた。「あのおいしい焼きむすびの作り方教えて」「同じイシルが欲しい、どこで買えるの?」なんてやってるうちに、e-mail
が奥能登と東京の間の空を飛び交うことになった。すぐ、e-mailの魔力が働きだした。相手との距離を取り去り、双方をとても気楽にしてくれるのだ。電話ではわざわざ話さない日常の断片を、メイルに書くようになる、しかも新ちゃんはフランクでユーモラスで陽気だから、こちらも安心して好きなことを書く。

「夜中にうちに戻ったら、中から見知らない大きな白いイヌが飛び出してきてビックリした」なんてメイル。「タマゴがたくさん取れるはずなのに、たった2,3個しかなくて、今日やっと原因がわかった。その謎ナゾの答えは?」というのもきた。「ネズミ?」と訊いたら、答えはカラスだった。

新ちゃんから「宅配出した」とメイルが来た翌日は、朝からウキウキ。ぱっと飛んでいって開けると、玉手箱みたいに、モズクだったり、カジメという海藻だったり。一夜干しの小さなカレイは、薄い飴色でいかにもやさしい。

東京からは、国産小麦で健康なパンを焼くルヴァンの品や、餡から手作りする岬屋の最中や、手で練って作る黒飴、子供の絵本を送る。するとまた、「河原を散歩してたら、フキノトウを見つけたんで」とメイルが来る。フキノトウは落ち葉もまじって美しく、野の香りに感動して、デジカメで撮ってメイルに載せて新ちゃんに送った。新ちゃんからは、一夜干しを夫婦でつくる小さな魚屋さんの写真がメイルで来た。

〈味メイル〉の相手は、遠くなくてもいい。東京の古い友達が、メイルのやりとりしてるうちに、お料理上手の夫だとわかったこともある。

「うちでは居酒屋トシちゃんて、呼ばれてる」

と書いてきた。「なぜか結婚以来25年間、週末はぼくの料理ということになっていて、金曜の夕方は材料を仕入れてから帰る」のだそうだ。「娘はソファに寝ころんで、あれこれ注文を出すだけ」

「パーティでマメだったナゾが解けた!」

ワインの世話やお客への心遣いでパーティに欠かせない人材の彼に、そんなバックグラウンドがあったんだ、と知ったのもe-mailがあればこそ。