メイル友達はマメ人間
そしてマメだ。パソコン人種はマメ人種でもある。e-mailは、テニスのヴォレーみたいに、やったりとったりが頻繁だからおもしろい。「梨のつぶて」の不精者にはむかない。新ちゃんもうちと同じ、マメにんげん。
川柳じみたヘタ俳句を私が送ると、新ちゃんからも似たようなのがくる。《TheWestWing》(ホワイトハウス)を真似た、うちの家族のコードネームを書き送って当てっこしたり。ブリの食べ方や、ゴボウの風変わりな料理法がメイルでくるのは、新ちゃんは湯宿さか本の主人だから。彼は、静かな宿と純粋な食事を愛するひとの間にファンが増えている天才的な料理人だ。
ここの話しは、最新の「ご馳走の手帖」(暮しの手帖)に書いたけど、ほんとに二つとないすごい宿だ。四谷の丸梅の女将さんが亡くなって、あの味と精神にもう出逢えないと嘆いていたら、その丸梅を思い出す、純粋な味なのだ。
最初のうちは遠慮がちなメイルを出していた。「あのおいしい焼きむすびの作り方教えて」「同じイシルが欲しい、どこで買えるの?」なんてやってるうちに、e-mail
が奥能登と東京の間の空を飛び交うことになった。すぐ、e-mailの魔力が働きだした。相手との距離を取り去り、双方をとても気楽にしてくれるのだ。電話ではわざわざ話さない日常の断片を、メイルに書くようになる、しかも新ちゃんはフランクでユーモラスで陽気だから、こちらも安心して好きなことを書く。
「夜中にうちに戻ったら、中から見知らない大きな白いイヌが飛び出してきてビックリした」なんてメイル。「タマゴがたくさん取れるはずなのに、たった2,3個しかなくて、今日やっと原因がわかった。その謎ナゾの答えは?」というのもきた。「ネズミ?」と訊いたら、答えはカラスだった。
新ちゃんから「宅配出した」とメイルが来た翌日は、朝からウキウキ。ぱっと飛んでいって開けると、玉手箱みたいに、モズクだったり、カジメという海藻だったり。一夜干しの小さなカレイは、薄い飴色でいかにもやさしい。
東京からは、国産小麦で健康なパンを焼くルヴァンの品や、餡から手作りする岬屋の最中や、手で練って作る黒飴、子供の絵本を送る。するとまた、「河原を散歩してたら、フキノトウを見つけたんで」とメイルが来る。フキノトウは落ち葉もまじって美しく、野の香りに感動して、デジカメで撮ってメイルに載せて新ちゃんに送った。新ちゃんからは、一夜干しを夫婦でつくる小さな魚屋さんの写真がメイルで来た。
〈味メイル〉の相手は、遠くなくてもいい。東京の古い友達が、メイルのやりとりしてるうちに、お料理上手の夫だとわかったこともある。
「うちでは居酒屋トシちゃんて、呼ばれてる」
と書いてきた。「なぜか結婚以来25年間、週末はぼくの料理ということになっていて、金曜の夕方は材料を仕入れてから帰る」のだそうだ。「娘はソファに寝ころんで、あれこれ注文を出すだけ」
「パーティでマメだったナゾが解けた!」
ワインの世話やお客への心遣いでパーティに欠かせない人材の彼に、そんなバックグラウンドがあったんだ、と知ったのもe-mailがあればこそ。
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