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トマトの笑う日

トマト銀行というのが倉敷や岡山にあって、銀行の建物には真っ赤なトマトがシンボルマークでついている。トマトのイメージは太陽、夏、ヘルシー。
トマトは大好きな野菜。自然農法のトマトはほんとにおいしい。でもそれがどっと重なると、ちょっと慌てる。地球人倶楽部でセールのトマトを1キロ買って冷蔵庫に収めた午後、娘が玄関で叫んだ。

「ママ、トマトが来ちゃった! 浜松のよ」
平たい箱にぎっしり、真っ赤な丸い顔が微笑んでいる。2ダースもある。その日また電話が鳴った。

「今日、いつもの農家からトマトを送ったわよ」

声の主は言った。「卵とメロンも」

「わー、うれしい!」声ははずんだが、心はギクリ。翌日来たトマトは、イタリア風の細長い形のミニトマト。朱がかった赤いのが2パックぎっしり。

トマト漬けだ! せっかくの心づくし、どんどん食べなくちゃ相手にわるい。お料理の本を総動員してトマト料理を探した。作ったわ、つくったわ、

「おなかを切ったらトマトがボタンみたいにころがり出そう!」

作ったトマト料理は左のようで、カッコ内はレセピの出所、数字はそれに使ったトマトの数。

トマトのムース「ロイヤルホテルの家庭料理」3個

トマトのクリームスープ冷製「右と同じ」10個

ドライカレー「右と同じ」1個のほか、スープに使ったトマトのムーランの絞り滓も入れた
メロン、トマト、バジルのスープ、ガスパチヨ風「ジャン・ジョルジュNYC」4個

トマトの皿焼きプリンセス「村上信夫の卵料理」のトモコ風。(卵にトマトとアスパラガスを載せてオーヴンで焼く)4個

細長いミニトマトは、娘が「ママ、これおいしそう!」と見つけた、大橋鎮子さんの「すてきなあなたに」(暮しの手帖社)の中の「おしゃれなトマト」を拝借した。楽しい短い文章が1年の月別に詰まっているのだが、そこにハチミツを塗ったトマトがある。皮をむいて横にスライスし、蜂蜜を両面に塗り、塩と挽きたてのブラックペッパーをかけ、元のトマトの形に重ねて冷蔵庫で冷やすレセピだ。

「トモコ・ヴァージョンでいくわ。皮むかずに」

私は宣言して、トマトを横向きに寝かした。小さな包丁、愛用の〈有次〉のアジ切りで、胴体にタテに切れ目を八つ入れた。地球でいえば、東西南北に切れ目を入れ、さらにその間に4ヶ所、浅く入れ、塩、黒胡椒、ハチミツたっぷり、冷蔵庫へ。

朝つくって午後、待ちきれずポンと口へ。冷たさとハチミツ味のトマトは、抜群のティタイムだ! 




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 トマトのムースとスープ、ロイヤルホテル 


ヴェジテリアンに変身!

「黄疸でなくて紅疸になるんじゃない?」

娘と笑いあったほど、日々これトマト。なんと3日間で、まるまるしたトマト25個とミニトマト18個を消費した! 四日目でミニトマトは全部ハチミツ漬けになった。

ミニトマトを下さった方へハチミツ漬けを分け、パン屋のルヴァンにもお散歩がてら持って行った。

新しく取り組むレセピもあるから、お料理は2人がかりだ。ロイヤルホテルのレセピは、米津春日、松本彌成両料理長。ずいぶん使っているのに、なぜかトマトのムースとスープはこれが初めてだった。

村上信夫やマリオの本も、探すとトマトや卵が、相性よく、一緒に使われているレセピがある。アスパラガスとトマトというのもある。ちょうど、ナショナルトラストのオホーツク村の資金になるグリーンアスパラガスが、1キロ近く着いたばかりだった。トマトとメロンもすっきり合う。

洋風料理には、野菜主体の凝ったお料理がずいぶんあり、野菜を手間惜しまずに料理すると、すばらしいひと皿になることを発見した。お料理というと、私たちは肉や魚に手間をかけ、野菜は〈添えもの〉程度に考えがちだが、これはまちがい。

しかも、野菜だから味はリッチでも、中身はヘルシーだ。気づいたらトマトのお陰で毎日、ほとんど肉なしの軽い夕食で、味覚は大満足なのだ。

「トマトのお陰で知らない間にヴェジテリアンやってた!」

「すごく食べてるのに体重が増えてないのよ」

たとえば、ある晩はこんな具合だ。トマトのムース、サラダほうれん草添え、バルサミック・ヴィネガー。スタッフド・トマト(ツナと黒オリーヴとアンチョヴィ、ケッパー、バルサミック・ヴィネガー)。これは「マリオの料理」のアミ・ヴァージョン。

トマトとメロンのガスパチヨ風スープ。ミニトマトのフライ(粉と卵だけつけて揚げる、本は中公のムック「イタリー料理」)。この夕食で動物性タンパク質はマグロのカルパッチョひと皿だけ。

別の日の動物性タンパク質はサーモンの冷製に、コテージチーズとサワークリームにエストラゴン入り添え。

ポーチドエッグをトマトに載せ、ビーフブイヨンとクリームのジェリーで覆う冷製は、ホプキンス風というそうだ。前菜だが、これが卵主役で今晩のメインになって、あとはみんなトマト料理。

野菜を料理するのに、ほかの野菜や卵が生きた。それにはハーブ類や木の実が欠かせない。エストラゴン、バジル、チャイヴ、ローズマリー、ナットメッグ、松の実……、上げたら切りがない。ハーブはフレッシュが絶対だけど、高いのが難。つい倹約しがちだが、野菜を生かすのはハーブだ。

スープやムースに野菜が活躍するのも、西洋料理のいい面だ。トマト、きゅうり、じゃがいも、ねぎ、メロン、アヴォカド、カリフラワー……。およそ野菜でスープにならないものはない。特においしいクリームスープやムースは、野菜が主役。ブレンドされ、漉されて、元の形は消えて、変身している。姿を残して、かたちと味の両方を味わう日本料理ともっとも違う点だろう。

野菜をもっと生かして食べることが、食卓を素敵にし、ヘルシーライフにもなる、と気づいたのが、〈トマト・デイズ〉の大プラスだった。


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