太陽の熱と風でできる天日塩や湖塩、岩塩などの塩資源に恵まれないわが国の塩づくりは、今も昔も海水を原料にかん水(濃い塩水)を採り、煮つめて塩の結晶を採っている。伝統的な平釜でつくられた自然海水塩は、濃縮された海水に含まれるミネラルの組成をいかにバランスよく採り込むかによって塩の美味しさが決る。昔から釜を焚く塩職人は、“いかに、どのくらい、にがり分を残すか”に苦心したという。平釜塩の結晶は、ふんわりと容積が大きく、微量なにがり成分が塩角を包み、まろやかな味の奥行きをつける。軽やかで淡白な塩味から、繊細な日本料理の味の粋が創られる。
わが国の食用塩は、イオン交換膜で海水から塩化ナトリウムを抽出したかん水(濃い塩水)を真空式蒸発釜で煮つめた塩と、輸入天日塩を水で溶解、再結晶したふたつの塩が主流で、塩生産・加工七社によって、年間約百四十万トンが大量生産されており、すでに食用塩の安定供給という塩のインフラは整備された。そして塩の自由化で、塩の生産方法に制約がなくなり、日本の伝統的な平釜方式による多彩な塩づくりが各地で盛んに行われるようになったのである。
今日の豊かな食文化と食の多様化を反映して、さまざまな用途と料理に応じた使い勝手の良い、手作りの塩を自由に選ぶことができる時代となった。
自然海水塩の品質を左右するのは、海水ミネラルを豊富に含んだ“素性のよい海水”である。海洋汚染が進む今の日本で、そうした原料海水を求めるとすれば、海水汚染の心配のない外洋に面した沿岸か、きれいな潮流に洗われた島々である。なかでも、自然環境のよい沖縄の“美(ちゅ)ら海”に囲まれた珊瑚礁の島々は、豊富な塩資源に恵まれた立地として注目されている。海のエッセンスである塩、「自然で健康によい塩」を採るためには、きれいな海水が絶対的な条件だからである。
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