No.213




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●十月は半ばの頃、そろそろギバ(柳葉魚)の新物でも仕入れに行くか……と、月に二、三度は冷やかすデパ地下の干物屋さんへ、また足を向けた。その手前に、いつも各地の色んな店が出張実演販売するコーナーがあって、その日儂は、伊勢の潤目鰯を商う小間のオバチャンに捉まってしまった。この手の人達はかなり商売上手だから、シャイな山出しはタジタジの体である。「柳葉を買いにきたんだってば〜」と呟きつつ、強いられるまま已むなく試食に及んだ。その潤目の旨いの旨くねえの……。三尾も摘んでしまった。突発的に酒が恋しくなり、左手が微かに震えた。二十尾程包んでもらって、そそくさと酒売場へ移った。柳葉の事はもうすっかり忘れている。潤目と酒壜を抱えると、デパ地下を後に家路を急いだ。改めて柳葉を入手したのはその六日後のことだ。

▲かつては山小屋のストーブの上に柳葉を並べて貪り食ったものだが、インポートの粉品ならともかく、やたら高値となった鵡川のそれを、山賊仲間なんぞにはもう奢る気はない。家にて、フライパンにクッキングシートを敷き、とろ火で気長にやっつけて、今は密かに味わっている。

■魚といえば、儂の場合包丁で切るだけ(というのも乱暴だけど)の生食がほとんどだけど、今年は何となく干物類も心掛けてみた。春以後口にした種類を原稿用紙の欄外にメモってみたら、軽く三十を越えた。思いの外食ってる。しかし回数的には儂の好きな喜知次やカマス、鰈の類、疣鯛などの繰り返しが多くなる。まだ試みたことのない魚や、今年は機会がなかったけどやはり食べたいものもリストアップしたら、十五種類程になった。来年こそ是非に――と思う。

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