二十年ぶりに姿を見せたアイリは、ぜんぜん変わらないまるっこいゲンキ顔、だぶだぶのカーキのつなぎに、自分でつくったシープドッグみたいな帽子をかぶっている。
「ひっさしブーリ! ノーブラだからつなぎ着てきちゃった」
みんなが揃ったところで、娘が昨日から粉を練ってふくらませておいたピザを伸ばして焼くと、香ばしい匂いが漂う。ピザをかじりながらいっせいに、
「ペンギンの由来を話してよ!」
「彼はね、ちがう名考えてたの。私がペンギン好きだし、南極へ二人で行ったし、ペンギンに決めたのよ」
「ペンギンなんてダメって言われなかった? 日本の役所ってお節介じゃない」
「フリガナいらないから、書類上は『辺銀』なのよ。お父さんがモンゴルの辺境で銀掘りしてたからって。後でフリガナつけてペンギンにしたの」
アイリは続けた。「でも、子供ができたから後悔してる。学校でペンギンさんなんて、呼ばれたらねー。いまだって、私、銀行と病院で『ペンギンサーン』て呼ばれると、みんなが見るんだもの」
ペンギンは、日本にひとつしか無い名前だ。ペンギン食堂は南の島にはぴたりの名前。この間文部科学大臣が「南極にはペンギン以外にクマ(北極グマの意味らしい)とかいないの?」と南極観測隊との公開TV会議で聞いたけど、自分こそ小学校で落第して勉強したらよかったかも? いまは子育て中で食堂は休んでいて、評判の「石垣島ラー油」を夫がせっせと手作りして、生活費を稼ぎだしている。お土産に貰ったそれは、オリジナルの製法で、こんなラー油があったのか、というつぶつぶいっぱいの液体で、おいしー。
「石垣島だと、台風がすごいでしょ?」
「すごい! でも、雨がモーレツだから、コンクリートの壁洗い流してくれて、きれいになるのよ。掃除しなくてすむからラクなの」と楽天的。
「島暮らしだから、国籍取得のときも、沖縄本島の役所に、私たちアロハと短パンとはだしで行ったのよ。そしたら向こうは背広がずらーと並んでて、その真ん中を歩いていくの。写真撮ろうとしたら『そういう場じゃありません』って」
「変なの。写真撮ったっていいのにね」
「日本人になったっていう、りっぱな紙をくれるのよ。亭主には、お辞儀して両手出して受け取って、そのままの形でうしろへ下がるのよ、って教えたから、彼そうやったら、驚かれちゃった」
沖縄なら役人も気軽なウェア着ればいい。カレユシウエアという、アロハ式だが沖縄模様のシャツがあって、オフィシャルウエアになっているのだから。
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