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冬のスープはしあわせのシンボル

暖房のきいてる都会の家庭の冬の夜。それでもやっぱり熱いスープは、お鍋にぐつぐついってるときから、見るだけでしあわせになる。

まして、暖房の不自由な昔や、アメリカの開拓時代など、熱いスープは心もからだもあたためてくれたはず。

最近の新聞で見た、食品会社のアンケート調査に、家庭の人気料理のナンバー1が鍋料理、とあった。

鍋料理の基本は熱い液体と実で、スープとはイトコ同士みたいなものだけど……。

「冬は、熱いものっていいのね」
「お鍋なら材料切るだけで料理いらず、ラクチンだし」
「うちは、お鍋料理やらないわ!」

そうなのでした。そんなに人気の鍋料理。うちでは最近とんとやったことがありません。

「去年、あんこうを取り寄せてお鍋にしたけど」
「水炊きも最近やってない……」

元々、そんなに鍋料理をするほうではなく、ひと冬に湯豆腐、鴨鍋、トリの水炊きのどれかをするぐらいだ……。

考えたら、最近の傾向はスープだった。スープ好きがお鍋を追いのけてしまったらしい。うちの晩ご飯のメニュは、たいてい、スープ、メインディッシュ、サラダから成る。ときにオードヴル風のものがサラダにとって代わる。たとえば今晩は、モデナ風ほうれん草のスープ、牡蛎のフライ、ブルスケッタ(こまかくきざんだトマトとバジルのバルサミコヴィネガーのサラダ)、カニとスープセロリのオードヴルというか、突き出し風。

夏は冷たいスープになり、冬は熱いスープになる。おとといはカブとお米のスープ、その前はマッシュルームのスープ、その前はカブとカブの葉のスープ。最近はポタージュという言い方をあまりしなくなったけど、作るのはたいていポタージュで、たしかに私は「スープスキー」だ。

ローラ・インガルス・ワイルダー原作のTVの「大草原の小さな家」はねづよい人気で再放送しているけど、あそこでよく出てくる料理はシチュウだ。開拓民とシチュウは切っても切れない縁。火ひとつ、お鍋ひとつでできる、肉も野菜もはいって、熱くて栄養がある料理だから。

ローラのお母さんも、村のほかの家族も、
「シチュウだけど、食べていかない?」
と訪れたひとを誘っている。

移住者は、自分で家を建て、暖炉も自分で築いた。料理は、その炉辺にお鍋を吊してやり、余裕ができたら調理用ストーヴを買う。オーヴンが使えるようになると、主婦はパイを焼く。ローラのお母さんはパイ焼きの名人だ。

新しい土地を求めて西へ移動する、強い牛が引く幌馬車隊の移住者たちは、悪天候や飢えに耐え、たき火ひとつ、鍋ひとつで豆やベーコンを料理した。日本人三人が調べた「オレゴン・トレイル物語」によると、三千キロの長旅で人と牛の疲労が重なると、途中で重い調理用ストーヴを捨てたという。



パルミザンチーズと卵が入るほうれん草スープ


コンポステーラの巡礼スープ

開拓民でも、信仰の巡礼でも、お鍋からしゃくってボウルに入れるシチュウのようにたっぷりしたスープは、身も心も温まる、いのちの泉だったろう。

スペインの聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラの聖堂への巡礼は、中世から続いて、現代でも人気が高い。ピレネー山脈を越え、縫うようにして歩く長道中だが、沿道の家が巡礼に振るまったというガリシア地方の伝統的なスープがある。娘が本で見つけて、ときたま作るけれど、スープと呼ぶのか、シチュウと呼ぶのか、ちょうど境目にいるような簡素でおいしい料理だ。

準備がひと仕事なのは、中に入れる塩豚をつくる手間(三日間塩に漬け、七日から十日熟成させる)と、乾燥白インゲン豆を水に浸けて戻すのに日がかかるから。昔はあたりまえのことが、何でもスピーディな現代では、気の遠くなるような作業になる。スローフードの典型だ。

得意料理は自然にその人の受け持ちになるから、コンポステーラのスープは娘の受け持ち。チリ・コン・カーンも娘がつくる。私もアメリカで覚えて子育て時代によく作った。キャンベルのトマトスープとリビーのベークド・ビーンズにチリ・パウダーとパプリカを振りこむだけで簡単だから。親子とも大好きで、子供もこれなら自分で作れた。

いまは、娘が赤インゲン豆をひと晩水に浸けて戻してつくるから、格段においしい。パーティの目玉料理のひとつになった。シチュウ系統の、どっしりした鍋料理はみな彼女の守備範囲だ。

私の受け持ちは純粋のスープ。スープのレセピは山のようなメモになっている。あなたは料理するとき、本を開いて作るのかしら? 私も料理しながら本を見るけど、でも、いちいち本を開くのはまどろっこしい。

私の原則は、これを作る、と決めた料理は、まずカードに書き変える。〈情報カード〉に、材料を調理する順に、私流の記号を使って横書きにする。簡単な図解をつけて、お鍋かボールか、使う器具もわかるようにする。そのカードに、スープがいやにたくさんあるのだ。

友達に料理好きのオトコがいるが、彼も、
「あなたはスープをよく作るんだね」と言う。
「たしかにそう。スープって、季節の野菜を使うでしょ。お野菜好きだから、スープが好きなのかも」

缶詰のスープは、有名店からたくさん出ていて、高級品もあるけど、自分で好きな材料でつくるほど、ヴァラエティがないし、味もそこそこ止まり。それに缶詰には、クレソンのスープや、カブとカブの葉を入れたスープまでは、なさそうだ。

そんなわけで、私は自他共に許す「スープスキー」。実は月にいちど、親しい仲間にメールマガジンを送っているのだが、その最後に「トモコのお気に入りワンディッシュ」としてレセピをつけていて、好評だ(と思っている)。いま数えてみたら、スープが三分の一を占めていた。


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