コンポステーラの巡礼スープ
開拓民でも、信仰の巡礼でも、お鍋からしゃくってボウルに入れるシチュウのようにたっぷりしたスープは、身も心も温まる、いのちの泉だったろう。
スペインの聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラの聖堂への巡礼は、中世から続いて、現代でも人気が高い。ピレネー山脈を越え、縫うようにして歩く長道中だが、沿道の家が巡礼に振るまったというガリシア地方の伝統的なスープがある。娘が本で見つけて、ときたま作るけれど、スープと呼ぶのか、シチュウと呼ぶのか、ちょうど境目にいるような簡素でおいしい料理だ。
準備がひと仕事なのは、中に入れる塩豚をつくる手間(三日間塩に漬け、七日から十日熟成させる)と、乾燥白インゲン豆を水に浸けて戻すのに日がかかるから。昔はあたりまえのことが、何でもスピーディな現代では、気の遠くなるような作業になる。スローフードの典型だ。
得意料理は自然にその人の受け持ちになるから、コンポステーラのスープは娘の受け持ち。チリ・コン・カーンも娘がつくる。私もアメリカで覚えて子育て時代によく作った。キャンベルのトマトスープとリビーのベークド・ビーンズにチリ・パウダーとパプリカを振りこむだけで簡単だから。親子とも大好きで、子供もこれなら自分で作れた。
いまは、娘が赤インゲン豆をひと晩水に浸けて戻してつくるから、格段においしい。パーティの目玉料理のひとつになった。シチュウ系統の、どっしりした鍋料理はみな彼女の守備範囲だ。
私の受け持ちは純粋のスープ。スープのレセピは山のようなメモになっている。あなたは料理するとき、本を開いて作るのかしら? 私も料理しながら本を見るけど、でも、いちいち本を開くのはまどろっこしい。
私の原則は、これを作る、と決めた料理は、まずカードに書き変える。〈情報カード〉に、材料を調理する順に、私流の記号を使って横書きにする。簡単な図解をつけて、お鍋かボールか、使う器具もわかるようにする。そのカードに、スープがいやにたくさんあるのだ。
友達に料理好きのオトコがいるが、彼も、
「あなたはスープをよく作るんだね」と言う。
「たしかにそう。スープって、季節の野菜を使うでしょ。お野菜好きだから、スープが好きなのかも」
缶詰のスープは、有名店からたくさん出ていて、高級品もあるけど、自分で好きな材料でつくるほど、ヴァラエティがないし、味もそこそこ止まり。それに缶詰には、クレソンのスープや、カブとカブの葉を入れたスープまでは、なさそうだ。
そんなわけで、私は自他共に許す「スープスキー」。実は月にいちど、親しい仲間にメールマガジンを送っているのだが、その最後に「トモコのお気に入りワンディッシュ」としてレセピをつけていて、好評だ(と思っている)。いま数えてみたら、スープが三分の一を占めていた。
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