女のひとは、男にくらべてお金の価値と食べ物の質に敏感だ。三百円の丼でおなかいっぱいはイヤ。ヘアサロンの女性たちは、派手な見かけの中で立ち詰めで働くきつい仕事。ランチには気を使う。
「ランチボックスを持ってくるし、最近はとても具合いいランチが買えるので、それにしたり」
私の行くサロンは、恵比寿ガーデンプレイスにあり、三越の食品売り場は目と鼻の先だ。
「女をターゲットにしてて、適量で上質。おそばなんか、十一時に行かないと売り切れちゃうのよ」
それは、丸い容器におそばを入れ、紙で仕切ってネギ、オクラ、納豆、かつぶし、貝割れなどが入り、温泉卵までついているという。
「いろんなのがあるから、選びやすくていいの」
中身たっぷりのスープや、和洋のおかずさまざま、海鮮サラダのパスタ五百円など。
「コンビニ弁当じゃ自分がかわいそうになるでしょ。働いてると、ランチは大事なその日の糧ですもの。いい加減には出来ないわ」
吉野家が牛丼をやめる日の騒ぎに女はクールだ。 「なんであんなに騒ぐの?」
「国民食なんかじゃないわ。それ言うなら、カレーやラーメンじゃない?」
牛丼を食べなくたって、お昼は困らない。代わりのトリ丼もいらない。食事は健康と味覚の根源、そもそも上質で安全な食事を、大量生産品に期待したってムリなのだ。企業は利益を第一に追求する。安いことは原料の質を落とすことにつながる。
外でリーズナブルに食べるなら、小規模の個人の店が安心だ。家族経営で一生懸命やってる店なら、材料も吟味し、値段も抑え、サーヴィスもいい。作り手の顔の見えない大型チェーン店や、工場製品を売るお弁当屋がいちばん要注意だ。
出所のたしかな肉や魚を食べたかったら、自分で選び、自分で作るのがベストだ。でもご注意。有名スーパーで、冷凍の白身魚の安さに目を惹かれたことがある。原産地を見たらヴェトナムだった。
「ノーよ、これは」私は買うのをやめた。
ヴェトナム戦争で大量に撒かれた枯れ葉剤は、いまも土壌に大量に残って水を汚染し、そこに育つ魚や農作物にはいりこんでいると、学者が調査を発表している。この枯れ葉剤はエイジェント・オレンジと当時の作戦名から呼ばれている悪魔の薬剤だ。
二一世紀は、伝染病が世界規模で電撃的に広まる恐ろしい時代だ。それは人を直撃することもあるし、家畜や魚介類を侵して、食物連鎖を引き起こす場合ある。それをテーマにしたサスペンス小説もある。大量生産の外食産業に食事を依存する暮らしは、もう切り替えなくちゃ。あなたを守るのはあなた自身だ。やるなら、楽しく自衛しよう。
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