No.206




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●確か北原白秋のものだと思うが、「からまつ、からまつ、からまつ……」と繰り返す響きのよい詩があって、往時人気を博した。恐らくその影響に違いないと思うのだが、一般には、高原や低山帯に広がる落葉松(からまつ)の植林に悪いイメージを持たないらしい。だが、儂ら自然児は違う。あの手のものを非常に苦々しく思っているのである。好もしい楢・山毛欅(ぶな)帯(言うところの雑木林)を皆伐して植林し、山を殺してしまったから――である。経済性も失われて、今、大方は手入れもされず放置されたままになっている。

▲そんな落葉松林の中で唯一喜ばしい点は、荒れた土地にまっ先に生えるタラの群落に出合えることだ。つまり、この季節はタラの芽の大収穫が期待できるのである。人が入る機会のある林道わきで見るタラの木は、すでに二番芽ももがれた後――というケースが多い。しかし、道もなく薮臭い、誰も近付かぬ植林の奥が、文字通り“宝の山”だったりするのだ。

■三〜四メートルに直立したトゲトゲのタラの木の先端に吹く若芽は立派な形をしている。それを掻き取るには秘密兵器が必要だ。もちろん儂はその用意を怠らない。針桐の幼木が に似ているので、よく間違える人もいるけれど、同じ五加(うこぎ)科のそっくりさんだから、同じように食べて何の差し障りもない。五加科の仲間といえば(もちろん五加そのものもだけど)、雑木の山で金漆(こんあぶら)の幼木を見つけて若芽をゲットできればラッキーである。五加科の樹種特有の香りと苦味を存分に愉しみたいと思う。山菜の季節だからといって、足元ばかり見て歩くわけにも行かない。時々は上を向いて歩こう。タラの芽を見溢さぬように……。

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