北アメリカに大量に棲んでいた渡り鳥のリョコウバトは、開拓時代には億単位の数で生息し、南をめざして飛ぶときは、何日も空が暗くなるほどだった。乱獲で急激に減り、一九一四年に動物園の最後の一羽、マーサが死んで絶滅した。肉がおいしく、羽が美しかったために人間が乱獲し、また営巣地になる森林が北米各地から消えたのも原因だという。
絶滅したトリで有名なのは、モーリシアス島にいたドウドウ鳥。七面鳥より大きく、泳げず飛べず、身を守る感覚がなかったため、航海で寄った船員たちが獲っては食べ、航海中の食料にした。一五九八年に船員に発見され、一世紀たたないうち絶滅した。これこそニンゲンが食べ尽くし絶滅させた生物の代表だ。ニューヨークの自然史博物館にレプリカが置いてあるが、「不思議の国のアリス」に描かれている通りの姿だ。
生物の中でいちばん頭脳的で技術も高度なヒトは、思うままに自然界を操って、獲って、改良して、食べてきた。肉食に偏った食習慣は環境破壊をもたらす。先進国の大量の牛肉消費は、安い牛肉供給地を求めて中米で森林を伐採、牧草地にして環境破壊を進めた。それをハンバーガー・コネクションと呼んで警鐘を鳴らしたのがイギリスのドクター・マイヤース。二〇〇一年にブルー・プラネット賞を受賞した。
環境破壊の結果は、思いがけないときに妙な形で姿を現す。動植物の突然変異や、動物のヴィルス感染はそのひとつだ。輸送の発達が、局地的な感染を一気に世界に拡げる。もし私たちの食料資源のどれかが強力なヴィルスに侵されたら、食料危機が起きる。それは安全な食料の値段の高騰と社会的なパニックを引き起こす。
去年の十二月、アメリカ牛の狂牛病発生が報じられた日、私はたまたま牛タンを一本買った。数日後、必要があってもう一本買おうとしたら、値段が百グラムあたり五十円上がっていた。タンは一キロ前後あるから、一本が五百円アップで、買うのをやめた。いまは平常時よりグラム百円も高い。「輸入が減る、需要がふくらむ」と見越して、輸入業者はたちまち卸値をつり上げる。企業は高値でも買うから、消費者には手が出ない。
牛がダメならブタを食べよう、ブタもダメならターキーを食べよう、肉でなくてお魚でもいい。最近は、ダチョウを食べようという試みもある。野生のバッファローも狙われている。ターキーは日本ではなじみが薄く普通の店には置いてないけど、安くておいしい。ターキーの挽肉は、軽くてしっとりしているから、キャベツ巻きには合挽よりよい。
日本人は魚介類を動物性タンパク源にするから、こういう時代には強みだけど、もし海が汚染されたら、魚や貝を代わりにすることができなくなる。
食物連鎖はスゥェーターの編み目みたいにつながっている。海の汚染は、もしヴィルスで起きたら連鎖反応的に広がる。大きい魚は小さい魚を食べ、小さい魚はさらに小さい魚やプランクトンを食べている。汚染は拡大する。
バイオの食品は〈二十一世紀のフランケンシュタイン〉という表現はもっともで、私は不気味だから食べたくない。でももし、ヴィルス汚染や世界的な渇水で食糧難が起きたら、バイオ食品に頼らないと生き延びられない世界がくるのかもしれない。
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