No.207




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●いちごの季節って何時だっけ――好きなものなのに、旬の時季が分からなくなっている。「苺」と「莓」の二種の文字があって、これはちゃんと使い分けるべきなのだ。「苺」は草のいちごの系統を表わし、「莓」の方は木いちごのうからやからを表わしている。片仮名書きなら「ストロベリー」対「ラズベリー」ってことになる。街のお店を真っ赤に飾るのはオランダ苺系の栽培ものだけど、儂ら山賊が馴染みは当然ラズベリー系である。「フランボワーズ」と呼べばオシャレか? いや「木莓」が分相応というか、やっぱり一番お似合だ。

▲以前は〈蛇苺〉という黄花の雑草が何処にでも生えていたのに、近頃とんと見掛けない。名前のせいか触れる気にもなれなかったし、まして口にするなんて考えも及ばなかった。一度ぐらい味見しておけばよかった。あれも立派に食用となるらしい。高い山には〈白花ノ蛇苺〉があって、〈能郷苺〉と同様オランダ苺に極々近い“高級”な草苺である。

■木莓系の代表選手は〈紅葉莓〉。葉のかたちが楓に似ていることによるネーミングだけど、儂らはただ〈きいちご〉と呼ぶ。漢字にすれば、この場合のみ〈黄莓〉である。実が黄味を帯びているのでそういうことになった。六〜七月の山端の道際にいくらでも見つかる。草木の吐く息が結晶したような味わいがある。〈草いちご〉という名の木莓、赤紫の花を付ける〈紅花莓〉、それに〈熊莓〉など……初夏から秋にかけて、旨くないもの不味いものも含め三十種ほどが山野を賑わしている。一々区別しきれないから、儂は皆ひっくるめて《きいちご》である。生食のほか沢山集めてジャムにでもしたら、
ハハハハクション……いいかも知れない。

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