No.209




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●傘の直径も、そして茎の高さも優に三十センチを超えそうな、どでかく成長したキノコに出会った。強度を別にすればスツールの代用になりそうなやつだ。赤い傘の表面に白い壷の残骸が、チョコレートにちりばめたナッツのように張り付いている。天狗茸科のファッショナブル〈紅天狗茸〉である。あまりにでかいので、儂は縮んでしまった不思議の国のアリスのような気分になった。食べてもあの世行きにはならないらしいが、酷い目に遭うからふつーは食べない。フェアリーテールの中に留め置く方が無難だ。

▲〈卵茸〉はさらにファンタスティックである。タマゴ状の白い壷を割ってまっ赤な頭がニュッと現れる。見るからに毒々しいしろもの(まっ赤だけど)だ。天狗茸の仲間だから当然である。こんなものを食べようなんて、ふつー、誰も思わないだろう。キノコ図鑑を見て、それが食べられるキノコと知ってからも、ずっと、手を伸ばす気にはなれなかった。
ある日のこと「儂はもう充分に生きた。終わりにしてもいいかな……」と考えて(ウソだ)、それを天幕の中に持ち込んだ。豆腐とのコラボで吸いものに仕立て、「旨いぞ」と先ず相棒に勧めた。大丈夫らしい。残りはベーコンと一緒にサッと炒めてぜんぶ腹に納めた。「行けるネ」と焼酎をグビリッ。一巻の終わりとはならず、今こんなコラムを書いている。

■ウエディングドレスを連想するような純白のキノコ〈毒鶴茸〉あるいは〈白卵天狗茸〉にも心がときめく。口にすれば激しい腹痛、下痢、嘔吐の末、肝、腎、心の臓がイカれて天国行きとなるそうだ。姿のよく似た〈白鶴茸〉は食菌だけど、間違えると大変だから狎(な)れ狎れしくしない。

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