総集編でのヒットは、ネパールの「じゃがいもとキュウリのスパイシーサラダ」。これはターメリックとクミンシードがきいたきりっとした味。じゃがいも大四個を茹で、それに対してきゅうり一本を四つに割って親指ぐらいにカット。ドレッシングが、レモン汁、ターメリック、赤とうがらし、白ごまのすりおろし、黒コショウで、これを野菜の上にこんもり載せ、そこに熱した油にクミンシード(パウダーではない)を入れて香りをたてたのをばっとかける。このタイミングで味がたつ。少々の醤油と刻んだたっぷりのコリアンダー、赤ピーマン細切りで仕上げ。いまはうちの気に入り料理、しょっちゅう作る。
ミクロネシアは西太平洋の赤道上、二千五百キロにわたって六百余の小さな島々が散らばった国。その「青パパイヤと豚肉の甘辛煮」は、しつこいのが好きな男たちが気に入った。もしやこれは、大根と肉の煮込みに憧れた日本人が昔この地で望郷の念から作った名残かなと思う。ここは第一次大戦から太平洋戦争まで、日本の委任統治領だったところだ。
パパイヤは日本では高いから質問が飛んだ。
「冬瓜で代用できますか?」
「大根では?」
「身が最後までしっかりしてることが要だから、柔らかくて身が崩れる野菜は向かないけど、青パパイヤは黄色のより安いから大丈夫」と道子さん。
バングラデシュはモンゴルとイギリスの影響がつよい国だという。「ポテト・パティ」はイギリス人も好きな料理で、じゃがいもを二個まるごと皮付きで茹でてから皮をむくのだが、道子さんが、
「染色でも何でもとてもよくなさる大使夫人でしたが、茹でたじゃがいもを包丁で半分に切ってボウルの中でポテトマッシャーで上からぎゅっとつぶすんです。これで皮がとれるんですね」
これは大発見。簡単に皮がはずれ、ちょいとつまんでどければいいから、手も熱くない。こういう小さな発見が、道子さんの細かな観察の結果、伝えられる。文化の違いがよりラクな方法をもたらすのが面白い。
この料理は、じゃがいものマッシュに水煮のツナ缶をまぜ、コリアンダー、青とうがらし、しょうが、にんにくのみじん切りにパン粉と卵までを入れて、小さな平たいボールを作って揚げるだけ。パン粉が先に入っているのがミソ。これも男が「ぼくやろう。お酒のつまみによさそう。エビでやってもいいな」。
文化の違いによる発見は、まだある。ホンデュラスでは、トマトのチョップの仕方だった。熱帯で、トマトを大量に使う国らしい。大使夫人は、蕪の菊花切りみたいに、トマトを平に置いて、縦横にこまかく切れ目を入れ、最後に横にしてまたこまかく包丁して、あっという間にみじん切りを作ってみせた。うちはトマト多用家族だから、これはとても役立っている。
南アフリカの「ボーボティ」は、国連の世界の料理にも選ばれたという、ターメリック、ナツメグ、オールスパイス、にんにく、コショウなどのスパイスに、土地の豊富な果物、干しアンズやアーモンドを牛かラムの挽肉とまぜ、最後にとき卵をかけてオーヴンで焼くミートローフ。伝統的な鉄のどっしりした鍋を使う。
「黒はアフリカの色なんですね」
道子さんの言葉に、私は赤茶色のミートローフが黒い鉄に映えるのを眺め、マサイの楯がたしか赤と黒の模様だったのを思い出した。料理にも土地の色が反映する。
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