No.223





.
.

●食品の店を覗くと、合わせ調味料の類いが種類も多く賑やかに棚を飾っている。売ってくれる人がいるから買うのか、買ってくれる人がいるから売るのか……その手の商品にはまったく興味が湧かない儂は、唯々不思議に思うばかりだ。先日試しにその幾つかを買ってみたけれど、何れも納得のいくものではなかった。「それくらいは自分でやろうよ……」と言うのが儂の結論である。

▲胡麻粒も、生のままよりもすでに煎ってある商品の方がずっと多い。ご親切に擂ったものまで売っている。「それくらいは自分でやろうよ……」と重ねて言いたい。擂りに擂った、いわゆる〈練り胡麻〉の壜詰めもある。便利かも知れないけれど、これも自分で練り練りしたものとは別――と解したい。面倒でも、実は擂っている(練っている)時間がいちばんの
“ご馳走”なのかも知れない。

■儂は柿が苦手だ。少年時代に過ごした自室の前に大小五本の柿の木があったことに起因するのだが、ここで詳しく説明するスペースはない。後年〈柿の白和え〉だけは好物となった。擂り鉢を抱えて胡麻を擂り豆腐を擂り、自分で作る。虫の音を聴きつつ、こいつを肴に天の美禄を傾けるのだ。

●白和えの基本は人参、あるいは人参と蒟蒻だろうか。他に鹿尾菜でも、菠薐草でも、花々でも、浅蜊でも、各種の山菜でも……要するに何でもいい。春の山では山葵(花・葉・茎)の白和えも儂の十八番(おはこ)の一つだ。白和えの和え衣は豆腐だけでもいいし、胡麻を胡桃や他のナッツ類に替えてもいい。マヨネーズ感覚で使うが、歳のせいか洋風は敬遠勝ちとなり、断然和風である。酒を旨くする――ためにでもある。

.

Copyright (C) 2002-2005 idea.co. All rights reserved.