夏休みの東京脱出は、うちにとって一年のハイライトだけれど、出入りの苦労は相当なものだ。田舎好きのアメリカ人のエッセイにも、帰ったときの苦労を思うと、出かける足がにぶる、というのがあり、同感だ。
今年も東京に戻ると、山のような洗濯物(ドライヤーがあっても、軽井沢は乾きがわるい)、冷蔵庫に食料を収める・捨てる、たまった郵便物や雑誌の処理、勘定書きの整理…… 丸二日はかかる。やっとほっとした日。ドーンとクロネコがきた。
「キャ、お野菜だー!」
アミが叫び、私もうれしいやら、あわてるやら。老婦人からのてづくり野菜の到着だ。キュウリ、ナス、葉と茎のついたズッキーニ、葉付きニンジン、シシトウ、シソ。
「早いうちに生かさなくちゃ!」
「みんな、うまく入るお料理って何?」
いろんな本をひっくり返し、落ち着いたのは、まずビーフン。ビーフンには、ニンジン、キュウリ、シシトウをたっぷり使えるし、タマネギとカクテル用のエビを入れ、キュウリの千切りをまわりに充分飾ると、食べるときシャキシャキしておいしい。ほんとは春雨が使いたかったけれど、あいにく少ししか残ってない。干しシイタケも入れ、ハラペニョンのピクルスを刻んでまぜた。ピリッとした味が、全体を引き締めてくれる。
『味の味』の原稿がある私は、今日は娘まかせだ。午後遅く、様子を見に降りて行った。
「おいしそうじゃない!」ビーフンをつまんでみた。おナスが鉄のフライパンでぐちゅぐちゅいってる。
「ビーフンには入れられないから、白ゴマ油で揚げてるの。冷やして食べるように」アミは顔を火照らせている。
「シソはどうするの?」
「何かの本に紫蘇ご飯は、シソが淡泊だから脂を加えるといい、チキンを味つけして焼いたのを刻んで混ぜる、ってあるのにしたわ」
お昼前からかかった老婦人の貴重な贈り物は、日の高い五時に仕上がった。
「あー、疲れた!」アミは猫のように伸びをし、
「チュカレタネー」と私はハグした。
「できたところで食べちゃわない? 紫蘇ご飯がさめないうちに」
テーブルに着いたら、まだ日は燦々。レースの向こうでシラカシの影が揺れている。
かまうもんか。出たとこ勝負よ。
「ハッピー 東京!」「ハッピー サマー・ヴェジイ!」
キリッと冷えた白ワインで乾杯。あー、野菜はおいしいけど、つかれる!
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