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粟国島の名前の由来は、粟の栽培が盛んであったからと言われています。十七世紀以前には中国からまだ芋が伝来しておらず、麦や粟を生産し主食としていました。特に粟は王朝への貢納品にもされ、麦とともに島民の生活を支えていました。

川が無く、雨も少ないこの島は作物を育てることが難しいため、食料事情がとても悪く、当時四千人いた人口(現在九百人)にいきわたる食料を得ることは困難でした。そのため蘇鉄の実(タンナー)も食べていました。蘇鉄の実には毒があるため、食べるにはとても手間がかかりました。あく抜きした蘇鉄の実を臼ですり潰し、粉をでんぷん状にして食べます。その際の味付けは塩でした。

あまり味の無い蘇鉄を美味しく食べるには、塩がとても重要で、複雑な味わいと素材の旨味を引き出す海塩がとても役立ちました。

また、粟国島には蘇鉄の実からみそを作る習慣があり、そこでも海塩が役立ちました。今日でも旧暦の九月五日に蘇鉄の実の収穫が解禁となり、島中で収穫の光景を目にすることができます。

食料事情の厳しい島の中で、年に一度の楽しみは家庭で飼われていた豚の解体でした。頭から内臓、尻尾の先までの全部を食べます。その際、日持ちさせるため、ほとんどの部分を海塩で塩漬けにして保存しました。

今日、豚は健康や長寿にとても良い食材としてもてはやされていますが、一部分だけではなく、昔のような一頭全部を食べることに効果があります。

私は粗食で、ご馳走がソーメンです。沖縄のソーメンの食べ方は本土と比べかなりユニークです。つけ麺として食べるのではなく、炒め物、和え物として食べます。それを一般的にはソーメンちゃんぷるー・ソーメンぷっとるーと言います。

しかし私が好きなのはソーメンたしゃーです。硬めに茹でたソーメンの水を切り、サラダ油、塩、にらをそのまま和えこみます。さっぱりとした中に奥深い味わいがあります。

また、麩のちゃんぷるーも大好きな食べ物です。溶き卵に浸した麩を野菜と一緒に炒め、味付けは塩だけ。シンプルなものですが食感、味わいともに絶妙です。

これらの料理のポイントはやはり塩にあります。手軽に作れるシンプルなものほど、塩の違いが歴然とします。にがり分がバランスよく馴染んだ塩は、素材の旨味を引き出し、塩だけで十分な味付けをしてくれます。

医食同源の中心にある塩を昔から大切にしてきた、アジアの芥子粒大の小島・粟国島から、いのちの源である「食」を世界に発信できることを幸せに思います。


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