No.225





.

●暮れも押し迫った頃「しもつかれを作るから食べに来ない?」という電話があった。「群馬のお友達からレシピを習ったの」と彼女はいった。「ん、群馬?」と儂は首を傾げた。それじゃ下野じゃなくて「上野かれ」だ。栃木の郷土料理としてその名を聞いたのは、儂がまだ二十代の頃である。やたら塩っぱかった昔の塩引き(しかもアラだけ)・節分の残りの炒り豆・油揚げ・酒粕・酢・醤油・大根と人参……そんな材料を聞いただけでは生唾も涎も湧かない(地元の人ゴメンナサイ)。それでも一度は試してみたいと思いつつ、機会がないままン十年が過ぎた。そんなわけで、儂はやりかけの仕事を放り出して彼女の許へ馳せ参じたのである。大根と人参を鬼卸しでゴリゴリやるのを手伝ったりもした。

▲大豆は抜き、上物の荒巻の身の部分だけを使った彼女のそれは、つゆだくでもあり、儂が予想したしもつかれとは違って、むしろ鰊の代わりに鮭を使った三平汁か、鱈の代わりの(アラ抜きだけど)鮭のじゃっぱ汁といった趣だ。しもつかりとも、しもつかれとも、しもづかれとも、すみつかりとも、すみつかれとも、すむつかりとも、つむちかりとも、つむちかれとも、ちょっと呼び難い。第一美味すぎるのだ。

■時に彼女は、サフランを使わずに何か別のもので色付けしたブイヤベース風やパエジャ風を作ったりする。儂はからかって、それをブイラベースとかパエリャと呼んだりする。その伝で、この小文の表題を(カレーじゃないけど)しもつカレーとした。本当は酢むつかりが妥当かもね。野州や上州の他に(地続きだから)茨城方面にも分布しているらしい。二月の午の日に赤飯とセットで食せば完璧なのだろう。

.

Copyright (C) 2002-2005 idea.co. All rights reserved.