ペット産業の缶詰めだけにのっかってちゃダメなのだ! 缶詰めやレトルトに、いくら麗々しい名前がついていても、しょせん、工場生産品。うちでも猫たちに、お刺し身やローストビーフや小アジをわけていたけれど、それは毎日のダイエットではなく、おまけにすぎなかった。アメリカの本の猫の食事メニュはすごい。
四ケ月の仔猫は、毎日、卵の黄身をやること! 野菜も大事。ほうれんそう、にんじんを一日に小さじ1。生の肉は、ビーフ、チキン、ラム、さっと茹でたレヴァーなどを、毎食大さじ2。魚は必ず骨をとる。バター少量も必要。週に一片のガーリックは仔猫に寄生する回虫に効いて、薬とちがって猫には無害とある。
「ヒェー、知らなかった、にんにくなんて!」
ジジには、油やバターはダメと獣医に言われたのを思い出す。根拠は何だったのだろう? 今度の仔猫は、“離乳食づくり”に励んで丈夫な猫にするぞ。
地球人倶楽部のオーガニックのニンジンとほうれん草を茹で、こまかく細かくチョップ、ラメキンに入れ、プラスティック容器に密閉する。ササミは生のまま、レバーは数分茹でる。卵は朝割って、黄身の半分が一日分。すべて地球人倶楽部だから健康食だ。
黄身をおそるおそるツナにまぜたら、猫は生の黄身が好きだった! みじんにしたほうれんそうとニンジンと黄身をミックス、さらにツナを加えると、ヘレン・ティティは勇んで食べる。
仔猫の名前にはいつも知恵をしぼる。うちの猫は代々、ひとつの音をダブルにくり返す名だ。ヒマラヤンがジョジョにキキ、アメリカン・ショートヘアがジジとリュリュ。こんどはティティを考えついた。ピッチ(絵本「仔猫のピッチ』)もあるけど、ジジをピッチとも呼んでいたので、ジジのために遠慮。ピッピは『長靴下のピッピ』、ピッパはロバート・ブラウニングの詩"Pippa Passess"に因むこともできるけど、ちょっと言いにくい――そこで音の愛らしいティティを選んだ。
"Titi"は、フランス語には「いたずらっ子」の意味がある。念のためパリッ子に訊いたら、"Titi"はプティットのほかに、"Titi Parisien"といえば、しゃれ者の小柄なパリ男のこと、モーリス・シュヴァリエや、ベルギー人だがエルキュール・ポワロの雰囲気の男を指すとわかって、女の仔猫だけど、私はまんざらでもない。「トムとジェリー」のマンガのカナリヤの名は、フランスでは"Titi"である。
元の飼い主は、ヘレン・トロウベルHelen Traubelという名をつけていて、女っぽい名前もステキだから、ティティとくっつけて、ヘレン・ティティと呼ぶことにした。
「ヘレン!」 呼ぶと、ぱっとつぶらな目をみはってこっちを見る。女の子がうちにいるみたいで、華やいだ気分になるのがステキだ。
この名の由来は、一九五一年にアメリカで創られたピンクのハイブリッド・ローズで、元の主人の好きなバラから。ITで調べたら、ミズーリ出身のソプラノ、メトロポリタンではワーグナーのプリマで知られた女性でもある。写真で見ると大柄の、いかにもワーグナー歌手という美人だ。一九〇三年生まれ、一九七二年に亡くなっているから、絶頂期の彼女に因んだバラで、仔猫の美ニャンぶりを占うようだ。
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