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昨年十月、イタリア・トリノでテッラ・マードレ・スローフード生産者会議が開催されました。世界百三十か国から環境や生物の多様性保護と、持続可能な生産と流通モデルを実現させた五千人の食に関わる代表者が集まり、数多くのワークショップが開かれ、各国の代表者が自らの体験や考えを発表し、熱い話し合いが行われました。私も日本代表の一人として、私の塩作りと考え方について講演しました。参加者から多くの質問をいただき、塩への関心の深さを実感すると同時に、世界に於ける塩への認識の低さに驚かされました。

私の塩づくりと考え方を少しでもご理解して頂くために、今月号と来月号で、講演内容をご紹介したいと思います。

日本の南西部に位置する場所に琉球列島という島々があり、その中心になる沖縄本島の北西おおよそ五十八キロ離れた所に南北わずか四キロの小さい島があります。それが粟国島です。

人口わずか九百人前後の島は、工業、農業共に盛んではない為に、環境汚染がありません。島には珊瑚礁が広がり、海はコバルト色で透き通っています。

「粟國の塩」は、その海水のみを原料として、日本古来の製塩方法に、二十数年の研究の末発見した技術の粋をプラスして、手間と時間をかけて作り上げます。 

その製法は独特です。海から汲み上げた四十トンの海水を流下式塩田タワーで六倍の濃度になるまで濃縮します。

タワーの仕組みは、ブロックを十メートル積み上げた建物の中に一万五千本の竹が吊るされています。汲み上げた海水を十メートルの高さまで汲み上げ噴射させ、海水が竹をつたって落ちてくる間に水分を飛ばします。約六日間で海水の塩分濃度は約六倍にまで上がります。

その濃縮した海水を平釜で三十時間職人が付きっきりで丁寧に炊き上げます。水分を蒸発させると釜の中に塩とにがりがのこります。

その塩とにがりを脱水層で四日間自然脱水し、その後、自然乾燥に四日間かけます。そうすると程よくにがり分の馴染んだ塩と、塩には余分なにがりに別れます。

流下式塩田タワー
竹が吊るされたタワー内部
薪で炊く平釜
塩を炊き上げる筆者

この塩の特徴は、海水と同じバランスでミネラル分が馴染んでいるということです。そのため、人体に優しく、ただしょっぱいだけでなく、にがみ、甘味、辛味などの色々な味わいがあります。

私が塩作りに関して一番大切にしていることは、いかにしてミネラル分をバランス良く塩に馴染ませるかということです。

そもそも、日本の塩は海水を濃縮して炊き上げる、塩田方式がほとんどでした。揚げ浜式、入り浜式、流下式など時代とともに仕組みは変わるものの根本的な考え方は同じでした。しかし、「塩業近代化臨時措置法」の制定により、イオン交換樹脂膜製塩法で作られる塩が中心となりました。その方法で作る塩は、ミネラル分を來雑物として除去してしまったのです。

ちょうどその頃アトピーやアレルギーなどの現代病が騒がれるようになりました。バランスの悪い塩だけでそのような病気になるわけではありませんが、数ある原因の一つであり、それにより人体が治癒力をなくしてしまったのは確かです。

そのため塩は人体にとって悪者になってしまいました。

その頃、私は健康を害していました。健康を取り戻すために入ったヨガ道場で自然食品の大切さを知りました。自然食品を学ぶ中、故・谷克彦と出会い自然海塩のすばらしさを目の当たりにし、塩の研究を始めるきっかけとなりました。

研究を続ける中、ただ自然海塩であれば良いのではなく、海水のミネラルバランスとちょうど同じバランスでミネラル分が馴染んだ塩が良いという結果に達しました。

では、なぜ海水と同じバランスの塩がよいかというと、人間の体液、特に女性の羊水のミネラルバランスが海水のそれとほぼ一緒だからです。
人間の体内のミネラルバランスが崩れると、体調不良や病気をひきおこします。そのため海水から作るバランスの良い塩を摂るということにより、体調を改善するだけでなく、人間としての治癒力も活発になります。

現在、にがりは食ということに限らず、病気治しの素材として医療の現場でも使用されるようになっています。

(講演の後半「減塩信仰について」は、次号でご紹介いたします)


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