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年末、年始には、どこの家でも外の会合が増える。リタイアした人に夕方電話すると、家族が、
「忘年会で出かけてる」と言う。
「寒いのにたいへんでしょ」
「そうなの! 昼間の会ならいいのに。でも会社関係は、お勤めの人にあわせるんじゃない?」
集まりに出るのに、冬の夜はブルブル! いい気候のときだって、くつろいでうちにいるのを中断して着替え、女はお化粧し、出かけるなんてメンドー!出かけるなら、せめて出やすい昼間にしてくれー。 そこで私が宰領するときは、お昼の会をセットする。うちで開く大人数のパーティも、二十世紀は暮れの夜だったのを、二十一世紀になってからは、新年の昼間にした。ちょっと気取って言うと、二十世紀は夜型の時代――キーワードは華美、重厚。二十一世紀は昼型の時代――キーワードはシンプル、軽く。つまり二十世紀は、世間でなく、自分にあわせた暮しをするのがベストだと、みんなが気づいたのだと思う。
会場を使う会費制のパーティなら、いっそう、昼間の時間に、おいしく、楽しく、リーズナブルな値段(ランチは夜より割安)で――がいちばんの原則じゃないか。これに合う集まりは評判がよく、はずれるものは不人気だ。でも、まだ不人気組の招待状がかなり舞い込む。
「会費一万二千円? いまどき 」
こんなのはどんどん欠席するのがいい。「先約あり」なんて婉曲に断る必要もない。
あなたなら、昼間、いくらならリーズナブルだと思いますか? たとえば研究会式の集まりのあと、懇親パーティがくっついたものがある。会費五千円でも、高いと思う人が多いのは当然だ。
「二、三千円でいいのに。懇親会って食べるためじゃなく、おしゃべりするためでしょ。お酒は飲む人が自分で払えばいいのよ」
グループで相談して会費をきめるとき、みんな「それじゃ高い」と言わない。言うのはたいてい私だけ。率直でないことが、自分の暮しの質を下げているのに、日本人てフシギだ。外国人は見栄をはらないから、日英協会など、会費はとても安く、ジュニア料金もある。いい会場で開く総会が無料で、ジントニックやカクテルが出る。そういうのを見ていると、なぜ集まりにあんな高額のお金を取るのか、またそれに出るのか、不思議だ。
私がセットするときは、お昼の会食で税サーヴィス込み五千円で、一流のおいしい店でやる。お酒は別、銘々がキャッシュで払うこと。フランス料理はワインがいるから、瓶の数をきめて、乾杯分だけ均等に上乗せする。たとえば大学のゼミの同窓会を、
「新年会、いつもの所で、込みで五千円」と知らせれば、「安い!」とよろこばれる。「あそこなら本格的中華だからね。楽しみだ」
みな味にはうるさいうえ、これなら夫婦で来ても、出費は一万円ですむ。みんなが嫌うのは、会費に上積みされる「税・サ」と他人が飲んだお酒の料金だ。キャッシュ払いはその問題も解決する。


では、どうやったらいいセット役になれるだろうか? あるいは誰にまかせたらいいか? 答えは、自分のお金で食べて、味と金額にシヴィアなひとだ。 value for moneyを追求するひとは、いい店を知っていて、そこを大事にしているから、いざというときいい会を設定できる。それは、店がそのひとに協力してくれるからだ。「この人が言うなら、よくしてあげなくちゃ」そう店が思ってくれたら成功だ。

親しい店の美味しい会食は“Value for money”

それをあらわすのにいい言葉が、小見出しに書いた「PPO」のできる人。PPOとは、フランス人の実態を書いたアメリカ人の造語で、Persistent Personal Operationの略。意味は「辛抱づよく個人的事情を訴える作戦」で、困ったときの打開策に使えという異文化研究者の論。フランス人は客へのサーヴィス精神がない、ノンばかり言う、でもその彼らにウィを言わせて、欲しいものを手に入れるコツがこれで、最初から要求だけぶつけても成功しないという、面白い論理だ。一言でいえば人間的に迫れ、である。
読んでハタと気づいたのは、意味は少し違うけれど、贔屓の店を持って、そこでいいサーヴィスを受けるには、一種このPPOが働くのではないか、ということだ。よく足をはこぶこと、店のひとと会話して親しくなること、それがいい関係の始まりだ。お金を払うだけの仏頂面の客は好かれない。
でも、日本人のお客はしばしば、レストランでも、お菓子屋でも、笑ったらソンとばかりに、アテンダントへの愛想もない。席にグラスを持って来たらにっこりしてもいいじゃないか。いちいちありがとうを言う必要はないが、同じ人間なのだから、ほほえむぐらいはできるだろうに。支配人や主人がいれば、何がおいしかったぐらい、言葉が出ないかしら?
簡単そうに見えて、案外PPOがだれにでも出来るわけじゃないのは、人によっては、店のつまみ食いが好きだから。贔屓の店をきめずに、珍しがってあっちこっちへ行く。こういうひとは、宿無し鳥と同じで、ねぐらが無く、顧客になれない。PPOをPerpetual Personal Operationにしてもいい。perpeturalは長くつづく、という意味だから、個人的な関係を長く続けることで、これが基本だ。
ほかにも気づく日本人のマイナス性癖がある。それは、安い店では横柄になり、高い店では卑屈になる、店の格やくみしやすいかどうかで、態度を変える癖。
もうひとつのソンは、率直でないこと。思ったことをスイと口にだすのは、とても人間的で、人柄が出る。そこで店とお客は架け橋を持つようになる。でも心にあることを言わないひとは、おいしい、まずいの反応もないモノ食うキカイ。張り合いがない。ぬるかった、熱くして、という文句だっていい。それは生きた反応だから、店のほうも、お客の好みを知ることができる。同じアジア人でも、中国人は日本人よりずっと率直だから、接客業でも成功するし、お客も店で楽しんでいるように見える。レストランでは脱日本人が必要じゃないか?

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