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「粟國の塩」は創業十周年の記念事業として、今年二月、沖縄・那覇から九人乗りの小型飛行機で二十分ほどの「粟國の塩」の工場がある小さな島・粟国島で「塩・食・環境・教育」をテーマにスローフードを考えるシンポジウムを行いました。

シンポジウムと参加者1
シンポジ
ウムには、食環境ジャーナリスト、スローフード協会関係者、有機栽培農家、料理研究家、食の学校主催者、イタリア領事館の方々などをはじめ、県内外から二百七十名以上の方々のご参加をいただきました。

シンポジウムでは各専門家の方々のお話と討論が行われ、多くの貴重なご意見を頂きました。
その中から、私の感じたことをお話しします。


今日、スローフード運動をはじめ、食を正常な状態に戻そうという活動が活発になっています。
農業においては、遺伝子組み換え食品や大量の化学肥料の散布の問題、畜産では狂牛病や鳥インフルエンザなどの問題があります。しかし、これらのことは食問題のほんの一部であり、私達の身近にはもっと多くの問題が起こっています。

例えば、インスタント食品を食べ続けると食品添加物や塩分、糖分の摂りすぎで様々な病気の原因になります。また、その食品を包装する大量の包材が環境を破壊し、個食による家族のすれ違いも起こります。それらのすべてが食の問題に集約されます。

現在、食を昔の状態に戻し、さらに良い品質のものを目指して有機栽培の農業を始める人が増えています。しかし、高価なため食の安全よりも価格が優先されてしまい、有機野菜が普通に買えるまでは時間がかかりそうです。

近年、医療費や携帯電話料金などは驚くほど増加していますが、少しでも減らして食費への支出を五%ぐらい増やすことが出来れば、体に安全で美味しい食品を手に入れることが出来るのではないでしょうか。

安全で美味しい食品を摂ることで、心も体も元気にして、人間本来の治癒力がついて病気をしない健康な体になります。それは医療費の削減にもつながります。また、手作りの料理で家族と一緒に食卓を囲めば、食の楽しさ、美味しさを子供たちに教えることが出来ます。味覚は小さい頃に発達するといわれています。子供のときに食べた美味しいものの味は、しっかりと記憶に残っているものです。

様々な食材を使ったバランスのよい美味しい料理を楽しく食べることは、精神を安定させるといいます。甘い、辛い、しょっぱい、苦いなどの感覚は脳に刺激を与えます。食育ということがクローズアップされていますが、今問題になっている切れる子、引きこもる子の対策の一つになるのではないでしょうか。

我々大人は自分の意思で食品を選ぶことが出来ますが、子供達はそうはいきません。食育は、次世代を担う子供たちのために、早急に解決しなければならない大きな問題だと思います。

私は、塩作りの職人ですが、塩はスローフードの原点であると考えています。塩は海からの命の贈り物なのです。しかし、本物の自然海塩といえるものの生産量はまだまだわずかです。この自然海塩は太古の昔から生物の命を育んで来た海水の多くの種類のミネラル分が塩にバランスよく馴染んでいる為、体にやさしく無理なく塩を吸収することができます。ミネラルの働きは、人が健康な体を作り、維持させるために不可欠な栄養素です。例えば、ナトリウムを摂り過ぎると、カリウムが働きバランスを取ってくれます。マグネシウムは栄養の吸収を助け、老廃物の除去を促進します。


シンポジウムと参加者2
食品加工にも自然海塩を使うと、素材の旨味と深い味わいを引き出してくれます。

しかし残念なことに、日本で現在流通している塩のほとんどが、塩の自由化以前から専売されていた精製塩や、輸入原塩を炊きなおした再生塩です。精製塩は化学塩でミネラルの含有量はわずか〇・六%です。また再生塩は、ミネラル分を添加するためミネラル分が少なかったり、バランスが崩れていたりします。

これらの塩が根強い減塩神話の原因のひとつとなり、塩を悪者にしてしまったのです。

しかし、自然海塩であればすべて良いということもありません。本物の塩は大量生産になじみません。昔ながらの製法をベースに、長年の研究や技術を織り交ぜて根気よく作って、はじめて良い塩ができるのではないでしょうか。


今こそ、食そして塩のルネッサンスの時代だと思います。

自然の恵みを与えてくれる母なる大地に、これ以上負担をかけることをやめ、今こそ食を正常な状態に戻す時であると考え、スローフードという食の哲学が世界中に広がって行くことを心から願っています。


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