No.219




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●お飯事(ままごと)感覚で、少量ずつ数種の漬物を漬けている。漬物用に天日で半干しにした白菜を、緊急に已むを得ず、炒めものに流用したのが事の発端だった。決して悲劇的な結果とはならなかった。むしろなかなかなのである。あるいは、(椎茸を陽に当ててから使うのは今や常識であるが)カラリと晴れた日に儂は椎茸を陽に晒すと同時に、あそび心からエリンギ(縦に幾つかに裂く)やぶなしめじやその他の茸類を並べて半干しにしてから、炒めものなどに使ったりした。椎茸のように栄養上のプラスがあるかどうか――は知らないけれど、歯応えと味の深さは明らかに違っていた。図に乗って糠漬用の茄子や胡瓜も陽に当てた。セロリやキャベツも干して炒めた。恥ずかしながら、いつしかそれが病み付きとなった。

▲ある日のこと、町の小さな図書館で『日干し野菜のすすめ』という料理本を見つけてしまった。著者の有元葉子さんは、雑誌やテレビで活躍する料理研究家なのだそうだ。茄子、胡瓜、パプリカ、ズッキーニ、隠元なども、彼女のレシピに従って、其々包丁を入れてから半干しにして、調理した。これはいい。儂のように悪戯半分で(半分自嘲的に、自虐的に)こっそりやるのではなく、歴(れっき)としたプロの先生がちゃんと研究して発表しているのだから、もうコソコソ隠れてやることはない。堂々といける。こんな風に『味の味』誌上にだって臆せず告白できるのである。

■考えてみれば、この国にはよく干した大根や干瓢がある。イタリア人だってトマトやポルチーニを干して使うじゃないか。魚だって、生もよいが干しても当然別の旨さが生じる。うん、今夜あたりは鮎の一夜干しで杯を乾(ほ)したいと思う。

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