ここ数年、蕎麦がブームになっているようです。蕎麦の持つ様々な健康効果が注目され、また昨今話題のスローフードという観点から見直されていることも一因でしょう。蕎麦好きが高じ、行政や民間が開いている『手打ち蕎麦教室』などに通ううちに、プロ顔負けの道具や食材を揃え、自宅で本格的に取り組む方も多数いらっしゃるようです。

また東京では、依然江戸〜下町がブームとなっています。古地図やガイドブックを片手に、目的を持ってウォーキングに勤しんだり、老舗飲食店を食べ歩いたりする人たちの姿を休日によく見掛けます。中には“粋でいなせな大人の嗜み”として、蕎麦屋でちょいと一献傾ける『蕎麦屋酒』なるものを楽しむ方たちもおり、こちらも静かなブームを呼んでいるそうです。

さて。
あなたは最近、いつ蕎麦を食べましたか?
それは、どんなお店でしたか?
それとも、どちらかで買ってきたのでしょうか?

外食産業には厳しい時代ですが、昨今蕎麦(蕎麦粉)の消費量は増加しています。前述したようなブームも追い風になっているのでしょう。しかし最大の要因は、一般的な『蕎麦屋』以外での消費が伸びていることにあります。例えば外食ですと、立ち食い蕎麦屋や和風ファミレス、居酒屋など、チェーンを展開している業態の店で広く扱われるようになってきました。また、スーパーやコンビニでは年間を通じて人気商品となっており、手軽に味わえるので購入される方も多いことでしょう。余談になりますが、寿司や天麩羅なども、同様な傾向にあるようです。

それぞれのTPOに合った形で、身近に蕎麦を楽しんで頂ける時代になったんですね。それはそれで良いことだとは思うのですが、果たしてその蕎麦は美味しかったでしょうか。
「別に不味くはなかったし……、こんなもんじゃないの」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
「値段からしたら、この程度で適当では……」と納得する方もいるでしょう。
ブームに便乗する訳では無いのですが、蕎麦に興味を持たれる方が増えてきた今こそ、本当に美味しい蕎麦とはどういうものなのか、広く知ってもらわなければ、と考えております。その為にはまず何より、蕎麦屋に足を運んで頂き、専門店の味を召し上がってみて欲しいのです。
私は、昔ながらの蕎麦とは、蕎麦と汁(つゆ)がしっかりしているものを指すと思っています。
例えば蕎麦。国産か輸入か、また産地などにより、それぞれ一長一短があり、季節やその年の出来不出来も関わってきます。これらの蕎麦粉から良質なものを厳選し、時にはブレンドして使うこともあります。また配合は、よく二八などと言われ、当店でも同様ですが、各店により蕎麦粉とつなぎ(小麦粉)の割合は違い、中には十割というものもあり、誠に個性豊かです。いずれにしても、打ち手の技術が伴わなければ美味しくありませんし、何より蕎麦の体を成しません。因みに、現在のところ「蕎麦には何割以上の蕎麦粉を使うこと」といった規定は存在していません。
つゆは、高品質な鰹節をしっかりと煮詰めて、力強く旨味の濃い出汁を取ります。これを、甘汁(温かい蕎麦用)、辛汁(冷たい蕎麦用)、また種物などの用途によって、他の出汁を加えたり、寝かせたり、湯煎したりと、調整して使うのです。

ざっと触りだけですが、こういった細かい仕事の積み重ねが、蕎麦屋の蕎麦を作っているのです。美味しいと言われる蕎麦屋で召し上がって下されば、プロの技術が生み出すプロの味、本物の美味を感じて頂けるはずです。
また、蕎麦屋ならではの酒のつまみを取って、ゆったりと一杯やるのも一興です。古来蕎麦屋は、軽便な食事処としてだけでなく、気軽にひょぃっと立ち寄って酒を楽しむ店でもあるのです。

来る六月十九日から二十一日まで、東京ビッグサイトを会場に、全国の蕎麦・うどんが大集合する、めん産業展・物産展『大江戸めん祭り』が開かれます。業者向けのイベントとして四十年以上の歴史を持ちますが、今年からは一般の方たちにもご来場頂けるよう、内容を一新して開催する運びとなりました。日本全国津々浦々から、多種多様なめん料理が集まり、ご当地の郷土めんを味わったり、購入することができます。
中でも蕎麦については、その食文化の伝統や歴史の展示コーナー、本格的蕎麦打ち体験コーナーや蕎麦打ち名人戦などが設けられます。また東京開催ということで、江戸時代の蕎麦屋と品書きを再現し、ご披露しようと企画しております。
多数の皆様にご来場を賜り、この機会に本物の蕎麦を存分に楽しんで頂きたいと願っております。


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