No.227







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●三十年も前から、儂はからだの都合で、助子や鮭子の類いの粒々食いを(原則的に)敬遠している。まあ、鮫子のいいやつを戴いたりすれば別の話だけど……。自らの意志ではない。医者めが「食うなよ」とほざくから素直に従ったまで。世の中変わって、それは儂のからだにもむしろ「ヨロシイ」が、今や常識のようだ。しかし、一度習慣付けてしまったものは、容易に後戻りしない。

▲九州を旅してきた女山賊が、お土産と称して助子の唐辛子漬けを寄越した。「無添加・無着色でげす」というそれは、紛れもない某有名店の品だった。さっそく、儂は熱々の飯の上に載せて、ハフハフと掻き込んだ。後を引いて困る。粒々を敬遠中の儂にとっては、有難迷惑ならぬ“迷惑有難”である。「何か面白い食い方はあるかい?」とメールを送ると、彼女からは「芸もなく専らご飯のお友です」と返ってきた。「そりゃあそうだよな」と儂も頷く。

■助子といえば唐辛子漬けを思うくらい流行ってしまった。「だが待てよ」と儂は考えた。後引くままに貪り食うと、知らぬ間に舌の感覚が狂うのではないか? 大流行の唐辛子たっぷりの漬物然り……。助子本来の味を忘れないためには、塩をしただけの従来の品の方が望ましいと思う。軽く炙ってちょいとイッパイ(もちろん清酒である)。イッパイ序でに書けば〈だだみ(白子)〉の方も欠かせまい。湯引きして、あるいはちょいと炙って紅葉卸しで……いかん、またピリカラだ。だだみ(こちらは真鱈を食う)と一緒に大量の粒々を食らって、(まさか……とは思うが)もし、儂の腹の中でそいつらが一斉に受精でもしたらエライコッチャ――。

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