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三月三日は桃の節句ですが、沖縄では旧暦の三月三日(新暦=本年は三月三十一日)、サンガチ、サンニチ、浜下り(ハマウリ)という昔から続く女性のための行事があります。

本来は女性が浜に出て海水に浸かり、一年の無病息災を祈願する行事でしたが、現代では家族連れでご馳走をお重(ウジュー)に詰め、浜辺で潮干狩りをしながら、春の一日を楽しむようになりました。この日ばかりは沖縄の海岸はかなりの人出で賑わいます。

その行事の言い伝えは、
――若い娘のところに夜な夜な通う美男子がいた。男は毎夜娘のところにいるにもかかわらず、朝には姿を消していることを不審に思った両親が、男の着物に糸を縫い付けなさいと伝えた。翌朝、その糸を辿って行くと、洞窟の中にアカマター(蛇)がいて、美男子はアカマターの化身だと分かった。そして、「私が死んでもあの娘のおなかには私の子が沢山いる」と話していた。別のアカマターは「あの娘が三月三日に浜に下りて潮につかるとお前の子を流してしまうから駄目になるぞ」と話した。それを聞いた両親は、三月三日に娘を浜に連れて行き、海に浸からせアカマターの子を流した――
というものですが、このような民話は古朝鮮やアイヌにも同様なものがあり、沖縄の島によっても多少の違いはあるようです。

沖縄の三月三日は雛人形を飾るのとは違い、神秘的で、清らかな海水に浸かることで一年間の健康と安全を祈願する行事なのです。


海水にはヒトが生きていく上で大切な六十種類以上のミネラル成分が含まれており、その成分により健康で心豊かな生活が送れるということを昔の人はよく知っていました。

また、海水から作られる塩には料理のための調味料としての役目のほかに、厄除け、商売繁盛、清めなどのパワーがあると信じられており、薬用、神事に欠かせない貴重なものとして、その風習は今でも続けられています。

野菜、魚、肉などの食材には神から与えられた自然の持ち味があり、その素材の持つ自然の旨味を引き出す力が海の塩にはあります。日本人は料理の極意を塩梅といい、塩締め、呼び塩、たて塩、べた塩、紙塩、一塩などの多くの塩にまつわる料理の極意があることはご存知だと思います。

たかが塩、されど塩ですが、あたりまえのものを大切にする心、あたりまえのものに感謝する心が、健康で豊かな生活を送るためのキーワードではないでしょうか。



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