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粟国島は百貨店も娯楽施設もない孤島ですが、初夏になると、海のお祭りがいくつも行われます。
旧暦の五月四日(新暦・五月三十日)はハーリー競争(海神祭)が沖縄の各島で行われます。粟国島では十名ぐらいの漕ぎ手と舵取り一名がサバニと呼ばれる小舟に乗って競争します。大漁と海の安全祈願のお祭りで、近所付き合いや伝統を守る気持ちを大切にしている島民は総出で祝います。私たち「粟國の塩チーム」も参加します。

この祭りが行われるようになった、次の様な塩にまつわる言い伝えがあります。
――昔、王様が三人の役人に「世の中で一番怖いものは何か」と尋ねました。それぞれ「盗人」、「火」、「贅沢」と答えました。王様は「贅沢」という答えに、少しムッとしました。次に「世界で一番美味しいものはなにか」と尋ねると、それぞれ「砂糖」、「肉」、「マース(塩)」と答えました。王様は「塩」という答えに怒り、「贅沢と塩」と答えた役人を島流しにしてしまいました。その役人は島流しになる前に塩をすべて天井裏に隠してしまいました。その後何年も大雨が続き、塩が全く手に入らなくなって、王様の食事も塩抜きの味気ない料理になっていました。

そんなある日のこと、王様の食事を作っていると天井から雫が鍋の中に落ち、役人達はネズミの小便だと思いましたが、時間がなかったので、内緒にしてそのまま王様に出してしまいました。

王様はその汁を飲んで「今日の食事はなにか違う」と役人を呼びました。役人は天井から雫が落ちてきたことを話し、王様が天井を調べさせると、天井には島流しになった役人が隠した塩があり、その塩が湿気を含み、それが水滴となって天井から滴り落ちたことがわかりました。

王様は島流しになった役人の「世界で一番美味しいのは塩」という答えが正しいことを知り、直ちに城へ呼び戻しましたが、役人は「塩の大切さを知ってもらえただけで満足」と入水してしまいました。王様は何隻もの舟を出して探しましたが、とうとう見つかりませんでした。――

この物語の中で塩が湿気を含んだのは、海水から作られた「にがり(ミネラル)」が馴染んだ海塩であった証です。海塩には人を元気にする「にがり」が含まれていて、やさしくまろやかな味です。人は塩がなければ生きて行けません。また食べ物を生かすも殺すも「塩」が重要な役割を担っています。

海に囲まれた沖縄の島々では、昔から医食同源の中心に海塩があり、塩がとても大切にされていたことが、この言い伝えからもよくわかります。


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