No.230







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●〜さすれば、山はキョキョキョの時鳥(ほととぎす)だったり、カッコーの郭公(かっこう)だったり、ポポポポの筒鳥(つつどり)だったりするわけである。だから、順序としては取り敢えず〈鰹〉ということになる。昔々、山口素堂や大田蜀山人が盛んに喧伝したものだから、江戸の人々はこんな下魚(?)にすっかり入れ揚げてしまった。高が鰹一本にン十万円も支払ったアホな役者がいたとかいなかったとか。今は海を知らぬ山彦の儂でさえ(春から秋までの長い期間)、安価で手軽に手に入る。願わくば(房総あたりの)近海ものが欲しい。透けるような赤色・酸味と独特の香り。刺身は皮付き(銀皮造り)にしたい。和辛子を使い、酢か若しくはポンズで食べる。儂の場合は「たたき」ではなく、あくまで登り鰹の「刺身」党である。今宵も吾が愛酒(とも)〈神亀〉とのコラボレーションを愉しむ。

▲池波正太郎が描くところの梅安の食卓を、儂流の勝手なアレンジで実行する。刺身にした残りの冊を四〜五センチ角のぶつ切りにして、ミディアム・レアくらいに湯通しする。これを熱々のご飯の上に載せ、箸でほぐし、和辛子を載せ、葱の薬味を散らし、醤油をちょいと垂らし、ご飯もろとも掻き交ぜてハフハフと掻き込む。実は、これこそが、儂の一番好みの鰹の食べ方なのですよ――。

■魚を特殊なルートで入手できるわけじゃない。最寄りのスーパーやデパ地下の、普通の魚屋さんで買う。だから、そこそこの品であれば良しとしなければならない。買った品を俎(まないた)に載せてから「あっ、失敗だったかなッ」と思うことも無くはない。そんな時には全部ぶつ切りにして甘辛味で煮て、やはりご飯の上に載せてほぐしながら喰らう。

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