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愛用のスーパーにちょっと早めに行ったら、ホールチキンに二〇%ディスカウントの札が貼ってあるのを見つけた。肉の係が脇から「いま貼ったとこですよ」と得意顔。もちろん私は、すぐカートにいれた。丸ごとの二キロのチキンは千六百円。その二割引きはすごくうれしい。この大きさのローストチキンは、焼き立て、コールドチキン、様子を変えて、と三日にわたって使えるのだ。

早い時間には、ほかにも収穫があった。一日まえの野菜が別売りのバスケットにはいっていて、二つ入り三百円のエンダイヴがなんと百円だ。ズッキーニが三本で百五十円、一本の値段。一リットル入りの本物のクリーム千六百円の半額も見つけた。期日があと三日で切れる。実際にはもっと保つことを私は知っている。クリームはスープやデザートには欠かせない品、でも高いから感激だ。こういう出逢いはその日の運次第。ちょっとスリリングだ。
お陰で、普通なら買わない珍しい品を試す楽しみもある。ズッキーニの花付きは、十本一箱が千円から千五百円もするのを、二百五十円で買った。「花の中に固いタイプのモッツァレーラチーズを入れて揚げる」と、店の説明。うちはハイカロリーがいやだからオーヴンで焼いた。私たちは冷蔵庫のなかに、五日もまえのほうれん草やきゅうりをしまいこんでいる。それを考えれば「昨日の野菜」なんてヘーチャラだ。
「早起きは三文のトクって、これね」
自称ネコ二匹はウハウハだ。
別のスーパーはアーリーバード(早起きどり)という早朝割引があって、現金払いなら何を買っても一五%引きだ。ここはオリーヴオイルの二リットル入りボトルや、ハムやベーコンの塊や冷凍のシュリンプを買うのに向く。外国人はお金にシヴィアでストック派だから、早起きしてやってくる。野菜はそれほどよくないので、私は貯蔵用の品を調達する。

この数年、買い物上手になった。英語でグロッサリー・ショッピングといえば、食料や日用品の買い物のこと。私たちの生活は、グロッサリーが家計の多くを占めるから(これがおおざっばなエンゲル係数だ)、こうした品を割安に買えればとても助かる。わるい品を安く買うのは「銭失い」、いい品を安く買って、おいしく食べることが暮らしの質を上げる。

私たちは、お金なしには暮らせない。低金利、年金削減、医療費高騰の時代に、少しでも倹約しようとアタマを使う。やりすぎて、スーパーで値引き札を貼り替えていた常習者が捕まったという記事を見たっけ。かと思うと、
「オレが好きな言葉は『もらう、安い、タダ』の三つだ」
と言った若い男もいる。たしかにね。普通の家じゃ、そうはいかないのが難なだけ。彼は大名家の跡継ぎだから、旧領地からなにかと物資が送られてくる。といって、ぜいたくなわけじゃなく、変わり者の彼は、古いトヨタで夏もエアコン無し。電子レンジは、おじいさんの不用品をもらったら「回るんだね!」と驚いていた。「金持ほどシワイ」の見本だ。


新しい材料でワクワク。花付きズッキーニのチャレンジ


日本は暮らしにくい国だ。何でもあるけど、値段が高い。中古の家電製品は、安くそろえたい人への救いなのに、BSE(狂牛病)と間違いそうなPSE法とかで、お店では、五年以上まえの家電は検査マークを貼らないと売れなくなる。日本の品ってそんなに粗悪だヨって、政府が宣伝するようなものだ。

私は去年の秋、千円の電子レンジを買った。料理用ではなく、冬にウォーミング・ベアをチンして、夜の足温めに使いたい。これはクマの中の小麦粒が温めてくれる。千円で売るという外国人の知らせをスーパーで見つけて、一緒に二千円で簡素なオーディオも買った。

「もったいない」から、使えるものは使う、いらなければ人にあげる、一つモノを使いつづける。それが、モノに命を見つけて、大事にする精神だ。「もったいない」は、いま日本から船出して、世界に通用する言葉になりつつあるようだ。

モノ捨てない派は、世界中に分布する。日本だけの専売特許じゃない「モノを大事に」のライフスタイルだ。でもPSE法は、それを破壊する悪法。「弱きをくじき、強きを助ける」なんて、ひどい国だと思いませんか。私はアメリカの留学時代、救世軍で激安のカバンや小机を買って大助かりした。

アンディ・ルーニイは、何十年まえのなじみのタイプライターを捨てずに、使いつづけている。使える道具が無造作に廊下や道路に出ているのを見ると胸が痛むと本に書いている。私の友達は、まだ使える真空掃除機を「いるなら上げるわ」と通いのお手伝いに言ったら断られ、せめてとリボンを結んで捨てた。あとで「あれ、もらえばよかった」とお手伝いが言ったのは、見栄を張ったのかしら?

私の節約法をざっと書くと――
◆ペットボトルや缶の飲料は買わない
◆外出には水を持ち歩く(専用のいれもので)
◆お弁当は買わない、遠出はうちのお弁当を持参
◆パン粉は買わない、古いパンでつくる
◆古いバゲットは塩味のフレンチトーストにする
◆ローストチキンの骨でストックをとる
◆デザートのお菓子はうちでつくる(買うのは稀)
◆オーガニック・オレンジの皮は干して使う
◆クルマの移動ではSAやPAはトイレットだけ―― 食べない、買わない
◆買い物の紙袋は持って出て繰り返し使う
◆スーパーの袋や容器や保冷材は店に返す

友達にも工夫じょうずはいろいろいる。湿気た海苔で海苔の佃煮をつくる人。ケーキの名人のフルーツケーキやパウンドケーキは、お店のようにファンシーでない代わり、味はもっとよい。こういう人は、ちょっとしたお礼に自作のケーキや佃煮を使い、おいしくてよろこばれている。
昔はいまみたいにモノが豊富でなかったから、贈り物はお手製や、庭の花や野菜だったらしい。この精神を復活したら、経済なうえ、少し丁寧な暮らしができ、人とのつながりも濃くなるのじゃないか。


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