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沖縄には、昔から神々をお祭りする行事が数多くあり、ここ粟国島では年間六十を越える行事が行われ、全てが神様・先祖を敬うものです。
旧暦の六月二十六日(新暦七月二十一日)はヤガン折目という数百年続けられている島最大の行事が行われます。沖縄でも粟国島だけの、厳かで神秘的なお祭りで、最近では多くの観光客も島を訪れます。
初日は、島に七人いるノロ(祝女)が山の神に一心不乱に祈りを捧げ神様をお迎えします。
周辺道路は封鎖され、住宅や道路の電灯はすべて消され、闇と静寂の中、祈りは数時間続き、やがて神様が光として降臨されます。ノロにより迎えられた神は三日間、島中を巡り、島に豊穣と健康をもたらします。
三日目は、イビガナシという島の聖地で島民一人一人がノロを通し、神にお願をするヤガン折目のクライマックスとなります。

その昔、島の北西に魔の神が住み、人に近づいて目を悪くしたり、妊婦は流産させられたりしました。北山王(沖縄本島北部の今帰仁村)は武将を派遣して、バーイ(干魚)と御神酒で魔の神をおびき出して退治し、島は平和になりました。
二度と神の祟りがないように、そして武将への感謝のために始められたのがヤガン折目だと伝えられています。
この祭りには安産祈願の意味もあります。昔から一族、家族の繁栄を何よりも大切にし、子を一番の宝と考えるこの島には、子を宿らせるパワーがあると信じられていました。そのため子宝に恵まれない夫婦が島に移り住んで子宝に恵まれたという話が今でも残っています。

このように島では、伝統を大切にし、人・物を大切にする心が少しも変わらずに代々受け継がれています。
私は、本物とは、伝統や人・物を大切にする心から生まれてくるのだと感じながら、この島で塩作りをしています。
物作りにおいて、よく「こだわり」ということが言われますが、何が本物かを知らなければ、いくら「こだわり」を持っていても意味がありませんし、本物を作ることができません。
私は、日本人が大切にしてきた伝統・人・物を大切にする心が、この大量消費時代に若者たちにいかに伝わっていくのか心配です。物より心の豊かな時代になることを祈っています。



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