そこで私は、入院食のメニュを数ヶ所から集めてみた。朝昼晩とも、AとBの二種類から選べるようになってるのは進歩かも。色刷りの献立表もある。でも見ていくと、基本的に日本のお総菜式の食事で、働き盛りの男向き。洋風の食事をしている人には口にあわない――つまり入院したら暗澹とするメニュなのだ。簡単に紹介すると――
Aは朝がパン、はちみつ、ウインナーと野菜のソテー、フルーツ、ミルク。お昼が中華ランチでご飯、酢豚、海老チリソース、春雨にキュウリやもやし。夜はご飯に子持ちカレイの煮付け、青菜、シジミのみそ汁。里芋の煮物、昆布の佃煮。
Bは朝はみそ汁、アジの干物、野菜のソテー、薄塩のたくあん、ミルク。お昼はチャーシュー麺と海老チリソース。デザートがA、B共に杏仁豆腐。夜はAが鮭の塩焼きにかき玉汁。Bが擬製豆腐にサラダ菜、ミニトマト、シジミのみそ汁。両方に、肉ジャガ、ほうれん草のおひたしがつく。
別の病院のはもっと簡素で、朝はA、B、パン食三種とも、金平ごぼうと京風五目豆腐。違いは金平がゴボウか、大根かだけ。パン食は海老のムース五十グラムがつくけれど、五十グラムはネコの餌、一食分もない分量だ。
お昼はAがソース焼きそばとワカメの酢の物。Bが大根と里芋のミートソースかけと春雨の酢の物。パン食は「焼きそばドッグ、野菜ドッグ」がメイン。ホットドッグ風に焼きそばを挟む? おぞましい!
夜はAがサバの塩焼きに松葉しぐれ、Bがロールキャベツケチャップ煮(!)、カブの含め煮。パン食は鮭ムニエル、野菜盛り合わせ。麺を選ぶと、なめこそば、サバの塩焼き。
愕然とした。ウインナーソーセージは幼稚園児の好物だけど、おとなが食べるものじゃない。しかも朝から! ケチャップはいい料理には使わない。夕食にカレイの煮付けや鮭の塩焼き、たくあん、佃煮、里芋の煮物や肉ジャガは、まるで独身寮の食事だ。
グルメ時代は病院とは縁がないのか? 栄養士は家庭で何を食べているの? 家でおいしい料理を食べていれば、こんな献立になるはずがない。醤油や煮物や炒め物ばかりの食事で、病人の食欲はそそられない。だから入院すると家族が料理をはこぶことになる。日本の病院の昔からの姿、変な話だ。
病人には、病院が出す食事がすべてだ。それだけで食欲が出て、おいしく食べ、元気づく食事を出して、欧米の病院に近づいて欲しい。私はお産で四十年まえ、アメリカと日本の病院を経験し、後者は外国の患者も多いところで、どっちも不満はなかった。家庭と同じ程度の食事ができたからだ。
朝はトーストに果物、ジュース、卵、珈琲紅茶。昼夜はハンバーグやチキン、マッシュドポテトやグラタン、パイや野菜のスープ。単純でいい、でも家庭的な料理を普通に出す、なぜそれができないのか?
病院は収容所ではなく、医療を提供するサーヴィス業だ。予算の問題、厚生労働省の基準、慢性病への配慮など大変だろうが、私立小学校の給食メニュはもっといい、せめてそれ並みにならないか。固定観念を捨てれば、オーヴンやオリーヴオイルを使って、おいしい料理を能率よく作れるはず。栄養士に勉強と発想の転換が必要だ。勤め人の昼食か寮のような献立では、高齢社会の患者は元気にならない。患者をリフレッシュするのが入院食の役目だ。
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