家の郵便受けへ投げ込まれるチラシは、どうしてああ食べ物屋が多いのか? ピザ屋、お弁当屋、宅配業者。もう、うちで料理しないみたいだ。「食事の外注」、大げさな言い方をすれば、台所機能のアウトソーシングの増加は、食事を作りたくない、作れない家庭が増えてるせいだろう。
ある日、あれ? とアミが言った。
「これ、うちの近くのおそば屋じゃない?」ぱらっと見て「こんなにたくさんやってる!」
ペラペラの献立表には、おそば以外に、中華とご飯物と季節物の欄があって、全部で七十一種類の多さ。
住宅街に続く小さな商店街。いまどき縄のれんが下がっているのにアミは心惹かれ、私は自動ドアのおそば屋がおいしいはずないわ、子供ね、と笑っていた店だ。中華と日本そばはまったく別物なのに、そしてこんな多種類を安く売っておいしくできるはずがない、といったら言いすぎかしら?
住宅街のおそば屋は、出前と近所の勤め人のお昼が勝負だ。安く多種類にして、味より食欲を満たす戦略でいくのだろう。鴨南そば六百円、カツカレー丼八百円、チャーシュー麺七百円。ここにはお昼どき「妻はセレブで俺セルフ」風の男性がはいっていく。出前のバイクが出ていく。イートインとテイクアウトだ。
OLがお弁当を持って出るのは、店で買わなくたってテイクアウトだ。ランチで苦労するなら、うちからテイクアウトするにかぎる。いまそこら中で「テイクアウト」「イートイン」と、外来語が夏のツタみたいにはびこってるけど、ランチ苦労の人々は、言葉の向こうにある、外国の堅実なライフスタイルを真似たらどうか? 堅実な彼らは、ランチボックスを持ってオフィスに行く。中身はシンプルにサンドウィッチ、サラダ、リンゴやバナナ。そしてポケットパークや、そこらのベンチで青空ランチする。
映画「ワーキング・ガール」の印象的なシーンを憶えていますか? ニューヨークの競争社会で働く女のラヴコメディだけど、部長としてヘッドハントされた女、メラニー・グリフィス、その恋人役ハリソン・フォード。彼は、初日、出勤する彼女に「はい!」とランチボックスを手渡す。パートナーの男がサンドウィッチをつくるマメさと、部長に昇進してもランチを持って出る堅実さが、アメリカの売り物。彼らは女も男も、自力でマメにお弁当をつくる。
サラリーマンの夫がやっと最近、お弁当を持っていくそうで、自分でつくるのかと思ったら、ノン、ノン。妻が幼稚園児用のようなチマチマ弁当を、夫のために作るのだ! タコの形にしたウィンナ、ご飯の上におかずでトナカイや花の絵を描く。大の男が子供だましでよろこぶとしたら気味悪い。子供用キャラ弁は食の本質をはずれた労力の浪費としかいいようがなく、妻はこのエネルギーをヴォランティアにでも活かしたら? ランチの結論は、男が生活で自立して、自分でお弁当を作るのが第一の解決策、第二は、妻がお弁当をおもちゃにするのをやめること。
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