No.233





.

●道のベの木槿(むくげ)は馬に喰われけり――は松尾芭蕉の『野ざらし紀行』の有名な一句であるが、我が家では「窓辺の木槿を儂は食うなり」なのである。窓際に一本の木槿の木があって、こやつがよく枝を伸ばす。毎年丸坊主に刈ってやるのだが、懲りずにまたすぐ徒長を繰り返す。二階の窓をうっかり開けておくと、カーテンを押し退けて不法侵入し、図々しくも部屋の中で紅紫色の花を咲かせたりする。

▲ハナシは四月に遡る。今年も裸の枝々に瑞々しく愛らしい新芽をたくさん吹いた。三センチ程に育つのを待ってから摘み、汁椀に浮かせたりお浸しにして食べた。味を期待してのことではない。単なるイタズラ食いである。ところが実際に口にしてみると、これがなかなかヨロシイ。成り行きで「次はぜひ花の方も」という気分になる。そして花が咲く季節を待ち焦がれた。芭蕉さんの言うように、それをホントに馬や鹿が喰うのなら、儂とて絶対に大丈夫だと思う。花の形状が野菜のオクラと似ているので調べたら、やはり同じ葵科の仲間だった。食毒の心配はない。

■木槿は長い期間(八月から十月頃まで)たくさんの花を付けるが、その一つ一つは朝咲いて夕方にはしぼんでしまうらしい。花びらを一つずつ外し、さっと湯通しして甘酢に漬ける。朝粥を花びらで飾るのも悪くない。同じ頃野辺に咲く菊芋の黄色い花は、クソ暑い中では鬱陶しく思う。だが花のあるうちにその場所をしっかり覚えておくとよい。寒くなってから根っ子を掘り出すのだ。これは各種の漬物用に格好の食材となる。カリカリという歯応えがなかなかである。山賊だから、そこら辺のものを一応何でも口にしてみる。

.

Copyright (C) 2002-2006 idea.co. All rights reserved.