アニスのお菓子ってなんだろう? こんなにサライが憧れたお菓子は? 私たちの日常にアニスは見かけないけど……。
翻訳では、どこをひっくり返してもただ「お菓子」とだけ。元の言葉は何なのか? とうとうamazon.comをひいて、巻き毛のサライの横顔が表紙の"The Second Mrs. Gioconda"を、夏休みまえアメリカに注文した。
八月末、本は届いた。茶がかったペーパーバックをパラパラめくった。あった、あちこちに。
サライ憧れのアニスのお菓子は―anise comfits, anise cookies,anise cakes―として出てくる。コンフィッツはお菓子でも種や果物入りの意味。作者はコンフィッツもクッキースもケーキも同じに使っていた。
こんどは、Larousse〈ラルース〉で調べた。重く厚ぼったい、落したら足にケガする本。なんと、りっぱにあった。ANISEがあり、アニスシードのビスケットのレセピまである!
中華料理で使う八角は、強い芳香を出すお星さま型のスパイス、名前もスター・アニスで別ものだ。アニスは、お菓子にはaniseed〈アニスシード〉、つまり種を使うと知った。発音はアニシード。アロマティックな匂いが魅力だ。
アニスはエジプトとインドに産し、ルネッサンス時代にイタリーにはいってきたらしい。サライの暮らした日々、アニスは目新しい輸入品。アニスのお菓子は誘惑のアロマを放っていた!
レセピ自体は単純だ。でもアニスシードがいる。
うち中のスパイスの瓶を漁って、アミがやっとひと瓶見つけ出したら、数年まえの期限切れ。使うチャンスがなかったのだ。せっかく、サライの味を再現するなら、新しいのでちゃんとやらなくちゃ。
レセピを見るとすごい分量。キャスター・シュガー五〇〇グラム、卵十二個。粉五〇〇グラム、コンースターチ五〇〇グラム。こんな量でやったらぽんぽこタヌキになる! 半分にした。砂糖二五〇グラム、粉二五〇グラム、卵六個、コーンスターチ一〇〇グラム、アニスシードは半量の二五グラム。それで正解だったのは、アニスシードは、ひと瓶たった三〇グラム。一度で終わりだ。
つくる手順はとてもシンプル。すべてをよくミックスするだけ。黒い点々の見えるどろりとしたタネを、ベーキングシートに大さじ一ずつ丸く垂らし、室温で乾かしてから、低温のオーヴンで色づくように焼く。
一枚目は温度が高すぎた。低温でゆっくり焼いた二枚目のがだんぜん香りがよかった。アニスの香りが口いっぱいにひろがる。
「アニスってこんなにおいしかったの!」
「サライが夢中になったはずね、ベアトリーチェも」
アニスは癖になると、あるパティシエも言った。
「こんなシンプルなレセピなら、サライの頃とそう変わってないんじゃない?」
お砂糖の種類だけ、昔は茶色だったろう。次は精製してない茶色のお砂糖を使おう。
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