No.249









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●偶に上京すると人いきれでヘトヘトになる。「イッポン立てる(休憩の意)べえ」とビルの中の蕎麦のノンレンを潜る。品書きに〈韃靼(だったん)蕎麦〉とあったので試食した。美しく盛られ、それは予想外に違和感なくツルツルと愉しめた。腕の立つ職人さんだな…と感じた。韃靼粉の割合を訊いてみた。実は半年程前にスーパーで韃靼の乾麺を見付け、食べてみた。多くの乾蕎麦がそうであるように、やはり蕎麦粉入りの冷麦か素麺のようなもの…つまりうどん粉の割合が多い。味も舌触りもリピートをそそるレベルではなかった。“ルチンが普通の蕎麦の百倍”が売りだけど、「でもそんなの…」ま、いいか――。誘われて東京近郊の低い山(丘?)を歩きに行った。殆どが杉・桧の畑。やっとこさ雑木が現れたと思ったら、採石で尾根が突然消滅した。アホらしくなり、変な沢を駆け下って昼前に街道に出た。蕎麦店でイッパイやることにした。車なしでは行きにくい場所、粗末な民家を利用した店舗。ガランとした配置の中で若いカップルが長々話し込み、別のカップルが玄関前で記念のパチリ。辿々しい手書きのメニュー、酒はどれもキンキンに冷やされ、酒の菜は箸を拒絶する。肝心の蕎麦は儂の好みのタイプではなかった。いろんな点でちくはぐなのだ。店主が蕎麦を打つ己れの姿に陶酔しているのかも…。脱サラ蕎麦の典型だ。ソバオタクの、ソバオタクによる、ソバオタクのための蕎麦。やれやれ散々な一日だな…と儂はこっそり溜息を吐いた。いやいや(誰が褒めるのか)これがナカナカの繁昌だ。厨房がプロでも、ホールが普通のオバサンや学生アルバイトや言葉も覚束ぬ外国娘だったりする店も、会計を半分値切りたくなる。

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