No.239







.

●儂が棲息するのは海なしの県だし、それは当座関係ないかも知れないけれど、酒(日本酒)造りに関しては極めてマイナーな土地に違いないと、勝手に決め付けていた。ところがどうして、なかなかである。「地域の酒蔵を一堂に会しての試飲会がある」と聞き付けて出掛けた。会場には儂が馴染みの銘柄も全然知らなかった銘柄も合わせて、三十六蔵のブースがずらり並んでいた。一般には手に入りにくい酒もあって、なかなか面白い。この会は年に二度、二月と十月に催される。思うに、蔵人という人種は良い酒を生むために“意地”で頑張っているらしい。そんなところも儂が日本酒を愛する理由の一つなのだ。地域産の酒だから地域の小売店に並んでいるかというと、これがなかなか儘ならない。焼酎流行(ばやり)の昨今、地酒は余程肩身が狭いと見えて売場面積が縮小一方である。欲しいと思う他県の名醸を発見することも同様に困難を来たす。好みの酒とはいっても飲む量はほんの少しだから、注文して取り寄せる程の勇気がない。昨年偶さか、初めて出合って感激した酒がある。新潟県のO社の品だ。秋にまた偶然が重なって、その蔵の名醸と三度も出合った。おちゃもおちゃけも夏を越して熟成したものが良いに決まっている。しかも出合いの度にグレードが上がった。これを仕合わせといわずに何と呼ぶのか――。同じ頃、これまた偶然に宮城県T社の名醸と初めての出合いがあった。個性は違うけど、共に純米大吟醸・袋搾りの逸品だ。四十年程前に偶々手に入れた陶岳のぐい呑みは、家でもよく使い、時には山旅のザックに忍ばせて出掛ける。最近ひょんなことから入手してお気に入りとなったぐい呑み――鎚起(ついき)銅器のそれは、専ら燗酒用に利用している。

.

Copyright (C) 2002-2007 idea.co. All rights reserved.