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自然塩復活運動のリーダーであった谷 克彦氏から運動への協力を懇願された、大阪府立大学名誉教授の武者宗一郎先生は、当時分析化学が専門の理学博士で、食品添加物による食品汚染を研究されていて、公職にあったため陰ながら運動を援助してくれることに成りました。その谷、武者両氏が中心になり昭和四十九年五月、「食用塩問題シンポジウム」(専売塩で日本民族は滅びるのか)が開催されました。そのときの武者先生の話を要約してご紹介したいと思います。

「生命維持に欠かすことができない超微量の元素類は数十種類も在る。例えば健康な人には有毒金属元素の鉛、砒素、タリウム、ベリリウムが超微量であるが含有されていて、これらを無機ビタミン(ミネラル元素)という。この無機ビタミンは含有量が微量であることと、各元素間の存在比率(これをミネラルバランスという)が、海は海、土は土、人は人、犬は犬、竹は竹、として均衡を保たなければならない、という二点が重要な意味を持っている。もしもこの均衡が保てなくなれば、生命体は健康を保持できなくなるであろう。さらに重要なことは微量同士のバランスということであり、ごくわずか濃度が増大しても減少しても不都合が起きるという点である。バランスはすべて天然界にお任せするのが最高の策なのであり、米でも豆でも塩でも、すべて天然のまま化学処理を施さずに、自然に調理された姿で摂るべきである。決して化学精製や化学処理などの人工的化学反応を施してはならない」。

分析化学専門の武者先生ならではの考え方で、化学精製された専売塩に対して警鐘するとともに自然塩復活の重要性を強く訴えたものでした。

武者先生は塩の現状を調査するために沖縄に何度かこられました。私も調査に同行させてもらい、塩や健康のこと、そして人間の生き方まで多くのことを学びました。「数字は大切だが、その裏にある真理に目を向けることが真実を解く大切な鍵である」、「今まである総てのものが総て正しいとは限らない」など、武者先生の言葉に強い影響を受け、歴史から多くのものを学び、新しく真理を見つけ出すことこそ大切である、と考えるようになりました。その結論として「人間の身体によい塩」が私の塩作りの目標となったのです。塩作りの研究を始めて三十三年、ただ単に塩作りが好きだからではなく、塩の真理を追究することが使命だと考えています。武者先生との出会いがあったからこそ、「たかが塩、されど塩」、これからも私の塩の真理を求める研究が続いていきます。


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