ロブションのレセピ、ジャン・ジョルュのレセピ……パトリス・ジュリアン……好きなのを選んでディナーを用意する時間がない。まるで、子育て時代みたい。そういえば、子供が小さい頃は、大鍋で野菜と肉がいちどに大量にできるポットローストや、ミートパイ、ボイルド・タン、ミートローフをしきりにつくった。一つつくると数日使える。
それをとつぜん思い出して、アミに言った。
「今日はロンドン・ブロイルにしない?」
時間がないのは同じでも、あの頃といまの違いは、肉のちがいだ。ポットローストは骨付きのチャックローストという部位を使い、ゾウリほど大きくて固い肉だから長時間蒸し煮にする。ロンドン・ブロイルはロースト用で軟らかい。タンは当時は買える値段だったけど、いまはアメリカからの輸入がないから、バカ高で使えないなど。肉にも時勢が影響する。
ラクでも、夜の食事にレトルト食品じゃ人生闇!安直な鍋料理も趣味じゃない。仔猫忙しに立ち向かうには、焼くだけですむ舌平目やステーキに答えがある。
これも年齢があがったための投資額の違いだ。うれしいことに、フローズンフードの質があがって多種多様、うまく使うとタイム&エネルギーセイヴァーになる。冷凍のフレンチフライやミックスド・ビーンズは最近の気入りだ。
「お母さんも働きやすくなったわね」私は言った。
「ママの時代はまだ、人手があったからお手伝いを頼めたけど、いまはシッター程度じゃない」アミが夫婦とも国家公務員の友達を例にした。
「忙しいから、『食材宅配』を使ってるわ。内容が多少気になっても割り切ってるって」
料理に手間ひまかけられない家庭が、子育て以外にも多くなったのが、昔とのちがいだ。夫婦二人暮らしの友達の家庭では、妻の母親が高齢で寝付き、家庭介護をするために、毎日一時間かけて通っていた。ヘルパーでは用がたりないのが、日本の制度である。さいわい夫はマメで料理上手だったからしのげたけれど。
最近はあるデパートでよく見る女性の店員が、
「二月からお目にかかれません。早期退職をしますので」
「まあ、残念。おうちの事情?」
「夫の病気で、うちで料理や世話をしなければならなくて」
もしこれが逆だったら、夫は仕事をやめて妻の世話をするのかな、と私は思った。
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