22







自然塩復活運動のリーダーには、医学者など学者が多い中で、料理人の立場から運動に参加されたのは、明治時代から伝わる老舗茶懐石『辻留』の若主人だった辻義一さんでした。当時四十代前半だった義一さんは京都で生まれ、若き日には、北大路魯山人の下で修業された料理人でした。

「料理を作る上でもっとも大切なのが塩です。塩は材料の持っている味を引き出してくれます。淡味なものほど、ものの味が分かります。塩を使って淡味なものに吸い物があります。吸い物に使う塩は、専売公社の食卓塩や食塩ではどうしても味がのらない。我々の言葉で塩が立つといっておりますが、辛さがいかにも直線的に立っていて味に丸みがなく、なめらかさがない。ただ辛いだけなのです。又沖縄などで作られていた自然塩などとなめ比べてみるとその違いは、はっきりとわかるはずです」。これは、昭和四十九年に開かれた『食用塩問題シンポジウム』での義一さんのお話です。

運動は、科学者や医学者や自然食の関係者がリーダー的な存在で、化学的に作られた塩は、安全性、健康に問題があるという視点での意見が中核になっていました。しかし、漬物が上手く漬からない、すぐ腐ってしまうという漬物業者、美味しい醤油や味噌ができないという醸造業者、塩が立って味が乗らないという料理人たちも、専売塩に対して厳しく反発していました。

そのために、国は専売法の解釈内であるということで、輸入塩に『にがり』を添加した『特殊用塩』を許可したのです。これらは、自然塩ほど完全な塩ではありませんでしたが、多くの業者はこの塩を使い始めました。しかし、大多数の国民は、専売塩の問題を知らなかったのが実情でした。

義一さんの父、『辻留』二代目主人・辻嘉一さんが考案された『辻式塩の鑑別法』をご紹介しましょう。二つのコップに水を入れて、片方に専売の食卓塩を入れ、もうひとつに自然塩を同量入れます。入れた塩水を良くかき混ぜ、五分後、二つのコップを比べてみます。自然塩を入れたコップはまったく透明ですが、食卓塩を入れたコップは白濁しています。その原因は、食卓塩に添加されている炭酸マグネシウムが水に溶けないで残るので白くなるのです。炭酸マグネシウムは固結防止剤として、食卓塩が固まったり、湿ったりしないように人工添加されているからです。当時、テレビの料理番組の草分けでもあった嘉一さんは、運動には直接参加されなかったものの、料理人として自然塩復活を強く望んでいました。



.
.

Copyright (C) 2002-2007 idea.co. All rights reserved.