No.243










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●儂の好きな北寄りの山に、そろそろ姫小百合などが咲き始める好もしい季節である。一方近県では飛魚が腹をすりすり山並を越えて行く(嘘だ。鳶がピーヨロヨロとよろめき雁がガリガリ腹をすることはあっても、まさか山梨まで魚が飛んで来るわけがない)。サワラやシイラなどの大魚に追われた飛魚は「もう飛ぶっきゃない」と大きく翼を広げ、海面高く(時速五〇〜七〇キロで)何十メートルも、いや何百メートルも飛行するのだそうな…残念ながら儂はそれを目撃したことがない。何とかいうエイの一種も海面高く跳ね上がるらしいが「飛行」できるのは、恐らく飛魚だけなのだろう。スゴイなあ…と思う。でも、本当は魚じゃなくて鳥に生まれたかったのかも知れない。“空は海よりも広い”なんちゃってネ。この魚を捕獲するのは簡単である。船の甲板に寝そべってさえいれば先方様が勝手に飛び込んで来てくれるからだ。春から夏にかけて、海から遠い我が家でも、よく晴れた日に二階のベランダで寝そべっていると、時折りパラパラと飛魚が降って来ることがある(やあ、また嘘を吐いてしまった)。ずっと以前に温泉仲間と伊豆の島々を旅したことがあって、その時初めてこの魚を刺身で食べた。迂闊にも「へえ、生食できるんだ」と驚いたりした。以来季節のたびに、この魚を意識して何度も口にするようになった。折角の翼は利用方法がないけど、身の方は生を生姜醤油で、あるいは酢漬けにして、あるいは味噌を効かせたたきで食し、また摘入にして椀種あるいは串に巻いたり葉っぱに載せて焼いたりなど…、もちろん普通に塩焼きや味噌焼きの熱々をつつくのもよい。脂肪が少ないからさっぱりしている。フライだけはまだ試したことがない。

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