No.244









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●幾つかの童話系レシピ本の中から、前月は『アリスの国の不思議なお料理』に関してすこしだけ記した。今度は『古代ギリシャ・ローマの料理レシピ』と題する本を書棚から引っ張り出して(いつの間にかこんな本が居座っていた)、柿ピーを齧りながらパラパラとページを繰り、斜め読みしている。先ずは『イリアス』や『オデュッセイア』からの料理のピックアップだ。儂もふらりと山へ出掛ける時に、岩波文庫のホメロスのどちらかをザックの雨蓋に忍ばせて行くことがある。読書に耽るためにではなく、儂がパーンとなって大樹の下でニンフに囲まれながら転た寝する時の枕に丁度いいのだ。他にはフィロクセノスの『宴会』から、カトーの『農業論』から、アテナイオスの『食卓の賢人』から……特に古代ローマ最大の料理本と謳われる『アピキウスの料理書』からのピックアップが多い。古代料理の味付けには蜂蜜・オリーブ・ワイン酢・ガルム(しょっつるのようなもの)・多種多様のハーブやスパイスが使われた。著者は古い書物の不確かな料理の記述から悪戦苦闘の謎解きをする。調理実験を繰り返しながら古代食を再現したのだ。“肉より魚”の儂は、シチリア切っての美食家だった(そうな)アルケストラトスの鮫や鮪や鯛や鰹の料理を読むと、何だかすごく嬉しくなってしまう。もし古代ギリシャ・ローマ風の“宴会用の寝椅子”でもあれば、スパイス入りのワイン……じゃなくて、儂の場合はキャルバドスのグラスでも片手に横たわり、この手の本のページを繰りながらうつらうつらするのが(たぶん)至福のひととき。上の絵は古代の酒瓶に描かれたオリーブの収穫風景をイーカゲンにアレンジしたもの。

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