食べに行ったお店でヘンな目にあって――
でもその結果うちに戻って研究し、いい結果が出たお話です。
つい先日、いとこたちとランチの約束でデパートの特別食堂に集まった。そこにはある老舗ホテルが、のれんをかかげて「洋食」を出している。ふだんそこでは鰻ばかり食べている私は、たまにホテルのを試すのもいいなと、クラブハウス・サンドゥィッチを考えた。知人に確かめると食べたことある、大丈夫という返事。
そこで私は千六百五十円のクラブハウスを注文した。「しつこいからマヨネーズは一切抜きね」
アミはウィンナ・シュニッツェルを頼んだ。
やがてクラブハウスが現れた。楽しみ! と見ると、あ、ナイフ、フォークがない! テーブルには型通り、紙のプレイスマットに白い布のナプキンもセットされ、私は安心していとこたちとおしゃべりしていたのだ。でもクラブハウスはダブル・デッカー、つまりパン三枚、中身は二段重ねで間に野菜や肉がはいっているから、ナイフで切って、フォークで食べなければ、食べられない。これは困る!
ウェイトレスを呼んだ。
「ナイフとフォークちょうだい」(ホテルなら、ほんとはフィンガーボウルも持ってくる)。
待つ間、いとこが私のクラブハウスを見て、
「案外、薄いのね、それ」と笑って「思い出すな、
ダグウッド・サンドゥィッチ。あのものすごい厚さ。食べたかったなー、終戦後すぐだったから」
彼は私のひとつ年下で、戦後の食糧難と、人気アメリカ・コミックの楽しさを共有している。
たしかにこのクラブハウス・サンドゥィッチ、ダブルデッカーといっても、ちょっと貧弱だ。ダイナミックでないな、と思いながらそっと間を覗くと、トマト、レタス、チキンの間に、ベーコンは切手大がたった三片。カリカリに焼いてと言ったとおりの出来だけど、このサイズはいかにも淋しい。
玉ねぎのスライスを入れてもらおう。ウェイトレスにサンドゥィッチのお皿を渡した。戻ってきて、
「二百円いただきますが」
「えっ? 玉ねぎのスライスに二百円? 聞いたことないわ、ホテルでそんなものにお金とるなんて」
マニュアルでやる街道筋のファミリーレストランじゃない、名の知れたホテルだ。思わず、
「二百円あったら、玉ねぎがこんなに買えるわよ」手振りで示した。「料理人にそうおっしゃい」
「玉ねぎで取るんなら、マヨネーズ抜きにした分、返してって言ったら?」だれかが冗談を言った。
彼女は「入れました」と戻ってきた。玉ねぎのスライスは見当たらず、チョップしたのが雀の涙ほどはいっていた。ほかの料理ので間に合わせたのかも。
フレンチフライもべちゃっとなま白い。黄金色でカリっとしてなくちゃ。アミのウィンナシュニッツェルもぱりっとせずにベチョベチョだったし、レモンを頼んだら、たった一切れ持ってきて「五十円いただきます」。呆れて断った。
いとこたちの料理も不手際ばかり。せっかくの食事が雨に濡れたみたいにしょぼくれた。
このホテルはthe ENDだ。名ばかりのホテルの厨房は、デパートの食堂だからいい加減にしてるのか、それとも元のホテルがたるんでいるのか? 新聞に、ここには外資がはいりそう、と出ていたっけ。
帰りに寄った友達にこの話をしたら、
「あのホテルはひどいのよ!」と打てばひびく反応がきた。
「ホテルでビュッフェ・パーティをしたら、係の黒服がコーヒーにクリームは出せない、ミルクだけっていうの。夫がきっと列車食堂のウエィターだったんだと笑ったわ。調べたら、ほんとにそうだったの」
自分の出す食べ物にいい加減――は、そこら中に蔓延している日本病らしい。顔の見えない多数に売る食品だけでなく、直接お客が食べる料理まで!
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