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あなたは漫画を読みますか?
「あんなくだらないモノ!」
「若者じゃあるまいし」
でも、ちょっとがまんして覗いてみると、案外ユカイなことがわかる。つまり、いまの世の中の風潮だ。小学館のビッグコミックは、おとなもまあ読める漫画。そこに展開するのが、意外と食の話しなのです。

それも和風を見直そう、自然を大事に――で漫画にも緑の地球の概念が働いているのが見える。魚河岸の仲買人は海と魚と塩、大学が舞台では日々の食事を自分でつくり、野菜を食べよう。北陸の酒造りでは日本酒と和食に燃える若者たち。ブラジルやアメリカの男女も登場して、ピリッと胡椒をきかせる。
気になるのは、漫画が教育的すぎると漫画でなくなること。漫画の本質は笑いだ。とはいっても、漫画から食の大事さに目覚めるのはいいことだ。〈野菜おいしい、自分でやろう〉――は、日本の若者や男性になかった習慣だから大いに結構。ついでに、案外コンビニ弁当に頼ってるシニアが漫画のせいで目覚めるなら、これもユカイだ。

和風といえば、野菜と魚。共に私の大好きな素材、そして魚はナマを生かすのが日本の伝統。ただ、うちではそれを純和風で醤油頼りに食べることが、最近は減っている。つまりお料理を和とか洋とか、きっちり国境を引くのじゃなく、ボーダーレス料理になったのだ。これは自然のなりゆきで、情報時代には外国のチエを取り入れやすいから。いま家庭には保守派(これが多い)と進歩派(少数派)があって、前者は昔変わらない炒め物やお鍋や煮物、後者は外国の情報をとリ入れ工夫が盛んだ。

うちの日常語は「明日は何にする?」。何を食べるか、何を料理するかの意味。たいてい、前の晩に交わされる会話だ。ニクならフリーザーから出しておかなければならないし、もし明日がグロッサリーショッピングの日なら、ワクワクだ。麻布ナショナル、イコール鮮魚だから。

ガラスケースのなかは、頭をとった舌平目、スズキやサーモンのフィレ。外には氷の上に丸のままのイカやタイ、アジ、イナダなどが光っている。プラスティック皿の上にパックされた切り身でないから、食欲をそそられる。しかもリーズナブルだ。
「今日はイカがいいんですよ」鮮魚部の若い女性も、背の高い男性も、魚屋だから知識豊富だ。
「アジもいいな」
アジは皮を剥いで三枚に。タイは開いて皮付きでもらう。イカ三ばい、これもそのままもらう。アミが「うちで私がやるわ。味がちがうから」。

イワシは生! 皮つき! を緑の葉っぱ、コリアンダーのお供で


以前は和風なら、タイはおさしみでワサビとお醤油、アジはたたきで、ショウガとシソ。お魚というと必ず、湯木貞一さんの『吉兆味ばなし』をひっくり返した。でも最近は、ほかにも目がいく。
海のある国は日本だけじゃないからだ。農業国フランスは、南に地中海と西側にも海を持つし、イタリーは地中海とアドリア海。トルコ、タイランド、ベルギー、北欧三国も海の国。魚料理のアイディアをもらわなかったら、バカみたいじゃない?

カルパッチョはイタリーのオードウヴル、生の魚介類は大事な素材だ。生食には上質のオリーヴオイルと塩が決め手だけれど、添える生野菜の選び方にも左右される。魚やイカや貝を立体的にするのは、野菜の効果だ。
そんなわけで、うちでは生のイカやタイ、イナダやアジなどはお刺身風にスライスして、大皿にベビーリーフやグリーンリーフ(ときには辛みのあるルッコラも散りばめ)をひろげた上に、形よく並べてオリーヴオイルと塩で食べる。ガーリックをきかすこともある。

野菜料理も日本料理の独壇場じゃない。洋風料理を見ると、外国のほうが多様な料理法を持ってるみたい。おひたし、お酢や味噌の和え物、焚き合わせなどでは味の変化に限りがある。ニンゲンが国際結婚でミックスする世界なら、家庭料理も、素材からレセピまで、マリアージュ(結婚)で和洋中のミックス&マッチさせるのが、日々の食をゆたかに、健康的にする。健康食は、和食の独占ではない。
ここまで書いたらアミが口をはさんだ。「それって、ママのせいなのよ。ママが和風ノー、お醤油イヤ派だから、フランスやイタリーになるのよ」
「ほんと? あなたも地中海派だと思ってたわ」
「そうだけど。でも、アミは和風大好きだもの」
祇園の〈川上〉は、京都の割烹で一、二を争うお店だが、洋の取り入れも怠りない。たとえばサラダはケパーベリーを入れて非常においしく、デザートがトマトの丸ごと煮たもののこともあった。アタマがやわらかく、これもマリアージュである。

ニューヨークで評判の〈ノブ〉は日本料理と洋のマリアージュが売り物で、乾燥湯葉を揚げて白身魚のオーヴン焼きの下敷きにする一皿がある。オリーヴオイルをからめたパセリをのせ、紅蓼を散らす。
私の朝はイギリス風朝食だけれど、アミはコーヒーやグレープフルーツは必須でも、傾向としては和系だ。体重を減らしたいせいもある。彼女は朝お豆腐に目がない。

「せっかくお豆腐がおいしいのに、お醤油かけたら味が消えちゃう」と、モメン豆腐三分の一、大きいままのカットに、ネギのみじんをたっぷり載せ、エクストラヴァージン・オリーヴオイルと塩をぱらりと。粟国の塩かゲランドのフルール・ド・セルだと、ピカッとおいしさが増す。「朝からお豆腐?」からかっていた私も、まねして食べてみたら、とてもおいしい。醤油&ネギより軽い感じで、私も食べるようになった。

豆原料のお豆腐に当たる洋での〈豆腐的健康食品〉は牛乳原料のコテージチーズやヨーグルトだ。ヨーグルトは果物と抜群だし、コテージチーズはランチ代わりにもなる。トマトやキュウリがあうし、そこに万能ネギ(いやな名前!)のチョップを散らす。ゆでたポテトにあわせるのもいい。みんな低カロリーで健康的だ。食のマリアージュを進めよう!


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