No.261







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●十一月に勤労感謝の日という祝日がある。不覚にも儂はその意味を知らずにいた。そもそも休祭日など関係ない暮らしを強いられている。所謂オツトメの方々だって「ヤア儲け儲け、公休だ」と叫ぶぐらいで、その由来なんぞ無関心に違いない(今や祝日に国旗を掲げる家もない)。じつは稲の豊穣を田ノ神(我が山ノ神の出稼ぎ(アルバイト)である)に感謝する農耕儀礼だったのだ。農家の戸主が田に神を出迎えて家に案内し、先ずは風呂を使ってもらい、それから膳を供え(後に家族が直会をする)、さらにお泊り頂いてから山へのご帰還を見送る…というお祭りである。国を代表して天皇もほぼ同様のそれを行う。新嘗祭(にいなめさい)である。新天皇が即位する時にも大嘗祭(だいじょうさい)と称して同様のセレモニーを盛大に行なう。この国一番の重要なお祭りだったはずだ。新嘗なども陰暦が本来だから、然為れば十二月二十三日(ニソ)のあたりだ。「待てよ…」と儂は思う。稲の収穫期とは大きくずれて、むしろ冬至に重なる。どんどん短くなった日照が再び伸び始める太陽の復活(新年)の日でもある。ひょっとすると稲作以前からの祭り日かもしれない。今上天皇のバースデーでもある。ヤレヤレこんがらかって儂の手には負えない。兎にも角にも食の恩恵をカミサマに感謝感謝である。食材の採取・栽培から手が離れるに従って、人はこの感謝の気持を忘れがちだ。山中で木ノ芽草ノ芽や木ノ実草ノ実を口に運ぶたびに「旨いな、アリガト」と思う。最近は店で買う食材にも、酒の菜を作りつつ「サンキュー」と呟く。生あるものに犠牲を強いつつ儂に“旨”いと感じさせるシステムを創造したカミサマに感謝なのである。「アリガト」を唱えるたびにすべてが旨くなる。

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