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中国は琉球との関係を一衣帯水といい、琉球国は大明を以って輔車と為すといいました。一衣帯水とは非常に近い関係のこと、輔車も深く結ぶという意味です。今から三百五十年前とも、四百年前とも言われておりますが、中国から豚が導入されます。それを琉球では島豚と呼び黒豚が飼われていました。除葆光の『中山傳信録』には「粟国島には、良質の蘇鉄があり、豚が多い」とあります。
一昔前までは粟国でも各家庭でその黒豚を旧正月用に飼育し、神々への生贄として旧正月に捧げ、直合いたしました。

立春の頃は、南海の地でも北風の吹き荒ぶ厳冬の時節で寒い日が続きます。その寒風と乾燥を利用して、豚肉は塩漬(スーチキ)して大切に保存しました。大晦日に解体された豚は、一昼夜、血抜きのため棹に吊り下げて北風に当て、翌日からは、朝な夕な母親たちが、肉に丁寧に塩を擂りこみます。擂り込まれた豚肉、ソーキ骨(あばら骨)、豚足は蒲葵(ヤシ科・枇瑯)の上におかれ、滴る血や脂を蒲葵の葉を通して流します。およそ一週間塩で揉んで肉に馴染ませ、血と脂分を抜き取った後、豚肉用の甕に漬け込み、熟成するのを待ちます。漬け込まれた肉は円熟と深みのある味になります。それが塩漬け肉。二〜三ヶ月後からアミノ酸たっぷりの豚肉が頂けます。必要に応じて塩出しをし、水洗いして、たっぷり水を鍋に入れ塩漬豚を入れ約三十分茹で冷やしてから薄切りにして熱湯をかけて脂抜きして盛付します。ただ茹でただけで美味いものです。料理に勢いがあります。肉の個性と塩の個性、母親たちの細やかな愛情の手仕事で肉は上手にまとめられています。

粟国では旧正月の三日節句に豚の頭、七日節句に豚の足、二十日正月に尻尾を炊いて供える風習があり、ここにも中国の影響が残っています。
琉球料理は、風土を反映、素朴な人情のこまやかな豚肉料理が多いのが特徴です。油脂が多いため、しつこさをなくす一工夫が必要になってまいります。濃厚さを極力抑えるには酢の使い方です。その一品は「耳皮刺身(ミミガーサシミ)」でしょう。「豚耳皮の和え物」のことを「刺身」といいます。コリコリした歯ざわりはくらげに似て酒客に喜ばれる一品です。

◆耳皮刺身の作り方
1.豚耳皮は残り毛をきれいに焼き、鍋に入れて茹で、包丁で汚れも水洗いします。鍋にたっぷりの水を入れ、豚耳皮を四十分程茹煮にしてザルにあげて冷やします。

2.茹でた耳皮は長さ四センチから五センチの長さに切り、幅二ミリ〜三ミリの細切りにしてうす塩をし、一日冷蔵庫に入れておきます。

3. 一日おいた耳皮は熱湯で湯洗いしてから、さらに水でよくもみ洗いします。

4. ピーナツバター、白味噌、砂糖、酢、塩少量、胡瓜、もやし、その他適宜に加え和えます。



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