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故郷沖縄・粟国島は二月七日が正月です。それは今でも、粟国では農暦である太陰太陽暦を使い、旧正月を正統とするからです。
旧暦の大晦日、行く年を惜しみ子孫繁栄と五穀豊穣の感謝を祈る島の神事、真塩(マース)ヤーをおこないます。若者が各家庭を吉語で言(こと)祝(ほ)いで、嘉礼(カーリー)をつけます。黄金真塩(クガニマース)、銀真塩(ナンジャマース)、孵化真塩(シリマース)、若真塩(ワカマース)、御真塩(ウマース)と塩を美称の寿ぎ言葉で包み、祈りを捧げます。塩の霊力を拝借したことへの感謝、新しい年への予祝、願掛けを行く年来る年二年にまたがり行います。各家庭では祝人へ、島大根とチデークニ(島人参のこと)の膾(なます)や豚肉の供物がさしだされます。膾は、舌に染み入る母親たちの味で、それこそ故郷の母に繋がる味の原点があります。チデークニは沖縄原産のセリ科一年草。細長く黄色で肉質は柔らかく、カロテン臭がありますが、それがたまらない味です。薬効が高いといわれ、煎じ料理にも使用いたします。ダイダイ色の鮮やかな彩りと、代々続く子孫繁栄への縁語。更に味もよしで吉祥の作物、大変好まれます。

また大根がでたら医者いらずと言われ、大根には気を下し、食を消し、痰を去り、関節を利し、顔色を美ならしめ、五臓の悪気を去り、麦類の毒を消し、肺の血痰を治すといわれております。
大根は旧正月前に収穫(とりいれ)しておきます。そうしないと大根にスが入るからです。隣近所、大根の大きさを競い、七斤(四・二キロ)あれば賞賛されたものです。美味しい良質の大根は、肌が滑らかですべすべし、小根がなくて下に出っ張っていて、爪で弾くとコンコンと音のする大根です。
今でこそ「青首」が主流ですが、一昔前までは沖縄は太くて短い島大根、鏡水大根、西原、読谷山の大根が知れわたっていました。大根の頭の部分は膾に、中は煮物やソーキ汁に最適至高です。根っこはまな板の殺菌に使用したものです。大根を煮るときは汁の冷たいうちからいれます。また、茹でるときは、米のとぎ汁か糠をガーゼに包んで茹でると甘味がついておいしくなります。
膾の酢には、芋ヘーイ(芋で作った酢)が使用されました。煮芋が三に対し麹が一の割合、煮汁を少量入れ三か月ほど発酵させた酢です。

骨付きのあばら肉のことを、ソーキ骨といいます。ソーキ汁は沖縄の代表する汁物です。
ソーキ骨二本程を五センチくらいに切り、水から入れて茹でこぼします。次に鰹と昆布だし入りの汁に、ソーキ骨、大根、結び昆布を入れ、柔らかくなるまで煮ます。最後に醤油と塩少々を入れ味付けいたします。柔らかく、香りがあり、程よい脂分が溶け込み、昆布は豚の脂肪に馴染み、より一層柔らかくなります。さらに、豚肉の旨味と昆布の旨味の相乗効果でコクがでます。

行く年を惜しみ労い、新春を言祝ぎ、骨休めをし、寿ぎお料理は自作の作物を頂く幸せ。そこには香しき島の文化があります。



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