No.252






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▲「面白いものを見付けたよ」と、数年前に友人が、経木で三角に包んだ昔のままの納豆を持ってきた。まだ生き残っていたのだ。年長の方ならご存知と思うが、大人用の自転車を子供が小さな体で“三角乗り”する時代があった。儂と同年代の少年が、朝霧の中を「ナットナットー」叫びながら、自転車の三角乗りで納豆を売り歩いた。戦後の生活の厳しい時代には、健気にも子供がそんなアルバイトをしていたのだ。経木で三角に包んだ納豆だった。今の主流は発泡スチロールの四角い容器入りだけど、それがいつ頃に取って代わったのか、記憶にはない。儂はスチロールの触感が厭だし、序でに言うと添付された小さなタレも余計なお世話と思う。昨年(昔のものと比べると小振りだけど)経木に包まれた三角納豆をスーパーで見付けた。買ってみた。プラスチックの経木擬きかな…と思って火を点けてみたらパッと燃え上がった。どうやら本物らしい。ちょっと嬉しかった。機能に関係なく形だけ踏襲した藁苞入りもまだあるけれど、なんだか態とがましく見た目にも煩わしい。三角の経木の方を支持したいと思う。納豆を掻き回す回数や回転方向に拘る人もいるらしいが、その点儂は至って無頓着だ。儂は、大概は長芋と合体させる。並の納豆なら鬼卸しで卸した長芋を混ぜ、愛用の醤油を落として飯に載せる(決して飯に交ぜない)。前号に書いた納豆屋さん製の鶴の子の大粒物は、豆の大きさに合わせて賽ノ目に刻んだ長芋と和える。これはミズトリの肴専用である。納豆のネバネバが附着した器は最後にティッシュで拭う。貴重な水を節約したり、あるいは水源を汚さぬための、これは山賊としての哀しい(?)習性である。

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