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「春宵一刻値千金 花に清香有り 月に陰有り」『春夜』で有名な宋の詩人蘇東坡(そとうば)。ラフテーの原型、東披肉は彼の創作だといわれております。

もともと中国では、豚肉を大きな塊のまま茹で、それに醤油をまぶして揚げてから調味料液の中で蒸し、それから砂糖、脂、酒少々で「色付け油」を作り、出し汁と調味料を加えて煮たといいます。蒸してから適当な大きさに切り醤油、酒、砂糖を入れた鍋に葱、生姜、好みによって八角を入れ、柔らかくなるまで煮たものが長崎に伝わり、東披肉(トンポーロー)となりました。

一方、琉球には豚肉の角煮ラフテーとして伝わります。東披肉の沖縄版です。古の琉球では出し汁を用いず、溶け出した脂の中で煮ました。豚を各自で解体していた頃は、豚を麦藁で焼き、毛をこそげ落とし、更に焦げ目がつくまで焼きました。そうすることにより豚特有の臭いが消え、皮が柔らかく、味がしみこみ易くなり、豚脂の処理が容易になります。

現在では、豚三枚肉の皮を直火で焦げ目がつくまで焼いて、鍋に水を入れて炊きます。煮立ったらその焦げを丁寧にこそげ取ります。丁寧な水洗いが大切、手間暇をかけるこの手仕事こそが旨味を引き出す元、料理の基本で大切です。
鍋に洗った肉と水をたっぷり入れ、アクを掬い取りながら弱火で一時間半ほど茹で煮にします。肉を取り出して冷まし、四センチ角に切ります。

鍋に切った肉を入れ、鰹昆布の出汁に泡盛(酒)と砂糖を加え火にかけ、煮立ったらアクを掬います。落し蓋をして弱火で三十分ほど煮たら、醤油と生姜の荒線に切ったものを入れ、二時間ほど含め煮にします。醤油は最初から多めに入れずに二、三度に分けて加え、火から下ろす時に醤油の香りを残すように加えるのがコツです。

それを冷まして、冷蔵庫に入れます。豚脂が肉の周辺に固まりますので、それをスプーンで取り出します。その脂で野菜を炒めても美味しいです。

ラフテーのポイントは泡盛で煮込むこと。それによって柔らかくなり、コクが引き出されます。じっくり煮込むことにより脂が落ち、お箸で千切れるぐらいに柔らかく、肉表面はベッコウ色で、味が滲みこみ濃厚で淡白典雅な味になります。舌が美福なハーモニーを口の中で奏でます。脂で包まれながら脂を感じさせません。この奥深さこそ、沖縄母親たちのアジクーター料理なのです。脂肪がたっぷりの三枚肉を茹でこぼし、煮込んで、アク引きをし、さらに冷やして脂分を固め取り除くと、脂肪、コレストロールが約三十%も減少するという優れた料理法です。

愛おしい者を愛う手仕事が、味を活かし、味を引き出し、味を引き立て、味を添え、深みのある味にします。南国沖縄の暑さを乗り切る母親たちの智慧の贈り物として今も引き継がれております。


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