No.254






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●この季節、色も形も気味の悪い花を擡げる蝮草(まむしぐさ)(天南星・てんなんしょう)を山野でよく見かける。毒にも薬にもなる植物らしい。それがコニャック…いやこんにゃくの親類筋と聞いて驚いた。蒟蒻という植物の根茎を「蒟蒻玉」と呼ぶことを、バカな儂は知らなかった。前号に記した、山梨の里で母娘が煮固めていた砲丸状を蒟蒻玉と思い込んでいた。●群馬の奥に(大袈裟にいえば)中国桂林のような風景の場所があって、若い頃、探検ごっこをするためにその山域へ足繁く通った。急斜面に蒟蒻畑が張り付いていた。タクシーの運転手が言った。「蒟蒻なんて、本来は沢庵みたいにポリポリコリコリと齧るもんだ。昔風の一個分で、今時のフニャフニャ蒟蒻なら風呂桶一杯できるさ…」と。確かに、スーパーで普通に見る製品は、水分が限りなく百%に近い。以来ポリポリコリコリに憧れていた儂は、山梨でゲットしそこなった砲丸こそソレに違いない…と思った。●まさか、街中のしかもデパ地下なんぞでゴロンゴロンするやつに出会うなんて思わなかった。山形産である。調理済みの商品を奨める店員を制して、儂は渋黒い砲丸状を勇んで買った。俎上に載せてから、念のために手元にある唯一の関係資料『蒟蒻百珍』を繙いた。江戸時代の本だ。冒頭に「蒟蒻玉は臼で磨り、水で溶き、石灰を入れ…」とあった。今時商品としてそれはないだろうと思いつつ、半信半疑で製造元へ電話してみた。蒟蒻玉の意味を勘違いしている儂は、蒟蒻屋の“六兵衛さん”相手に、落語の林家正蔵もまっ青の、とんだ“蒟蒻問答”をやらかした次第。とまれその砲丸を分厚に切り分け、普段はやらぬ味噌田楽に仕立て、ポリポリコリコリと一気呵成に胃袋へ放り込んでやった。

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