No.255






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●北国の山中で青い瞳の別嬪さんに出会ったことがある。避難小屋で火を焚き、手持ちの食料を出し合って一緒に酒を呑んだ。チーズを焼苔(やきのり)で挟んで差し出すと、「ワタシ ブラックペーパー ダメ」と彼女が言った。「なに? 紫菜(のり)が食えねーだと…この青目(あま)め!」と儂は叱った。ガイジンは基本的に海藻や海草の類を食べる習慣がない(SUSHIがグローバル化する以前の話だから、仕方がない)。いろんな種類をふんだんに食べられるこの国はスゴイ…と改めて思う。

▲もっと古いはなし。儂が極々幼かった頃、父の仕事関連で棟梁がわが家によく顔を出し、酒を呑んだ。印袢纏(しるしばんてん)でどかっと胡座(あぐら)を組み、角壜のウヰスキーをストレートでぐびぐびと呷(あお)った。一切れごとの焼苔を無骨な手で器用にくるくると丸め、その先端を醤油にちょいと浸して口に運んだ。彼が好みの酒の菜なのだ。それを、子供ごころに儂は恰好いいと感じた。強いアルコールに咽せながら、幼かった儂も〈焼苔+ウヰスキー〉のスタイルを、こっそり真似てみた。

■いま小卓の上に朱塗りの銘々皿が二枚ある。一方に岩苔(ペーパー仕立てではなくて、摘んでそのまま干して? 素焼きにしたもの。一見“ゴミ”みたいな形状だ)を盛り、他方には(同様の形状の)アオサが盛ってある。何れも吸いものや、酢のものや、お茶漬けその他に使う“アレ”である。この形状をなんと呼ぶのか、迂闊にも儂は知らない。先程からちびりちびりとやりながら、この二皿を交互に摘まんで味比べ・薫り比べをしていたのだ。そんなわけで、新苔の季節というわけでもないのに、ついついこんな記事を仕立ててしまった。儂はシーベジタブルのすべてに目が無い。

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